判例1(東京高昭50.1.29 判時 771. 77)

大口取引先の経営状況の悪化を看過し漫然取引を継続した結果、その取引先が倒産した時点で自社の支払が不能となったケース

<事案の概要>

製缶及びプレス業を営んでいたA社の設立以来の代表取締役であるYは、知人の紹介で暖房機メーカーの下請業者のBと知り合い、以来、Bの下請として風呂釜の部品を製作供給するようになった。

Bは、A社との取引を始めた直後頃より、元請のメーカーから独立し、商事会社とタイアップして風呂釜の生産販売に乗り出し、A社は引き続きBの下請を続けた。

Yは、Bが独立した際は、信用金庫の「同金庫がBの後ろ盾になる。」との言を信じて特別な調査は行わなかった。

その後、Bの資金繰が苦しくなり、Bからの要請を受けてYは、A社振出の融通手形をBに振り出したが、Yはこのときも、漫然成算ありとしてBについての調査を怠った。

結局、Bは不渡手形を出して倒産し、自社の仕入れ先に対する支払をBからの受取手形にて決済していたA社も不渡手形を出して倒産した。

<結   論>

責任について積極判断

<判 断 基 準>  

基準1 当該行為自体の違法性、危険性の判断

 (一般判断)

「商法266条の3に基づく取締役の責任を容易に広く肯認することは、ときとして放漫経営の名の下に結果責任を当該取締役に要求することとなり、又企業経営の裁量性、弾力性を損なう場合もあり得るので、その点は十分考慮すべきことではあるが、しかし他面、企業のもつ経済的影響性、経営者の負う社会的責任性等に着目すれば、経営が著しく客観的合理性を失し、そのため直接或いは間接に第三者に損害を生ぜしめたときには、右経営者(取締役)は同法条に基づき第三者に対し損害賠償の責を負うべきもの」

 (個別判断)

取引先の在庫が増加して資金難に陥ったことを承知していたにもかかわらず取引先の事業に関する調査等も行わなかった。

取引をもつに当たり紹介者の言葉を信じて信用調査を行っていない。
取引先が元請から独立した際も信用金庫の「同金庫が後だてになる。」等の言を信じて特別な調査は行っていない。
取引先が在庫増で資金繰りに苦しいので融通手形を出してもらいたい旨の申入があったとき、これに応じ、その際も従前の実績や需要見込から漫然成算ありとして調査等を行っていない。
基準2 当該行為が関係者(当該会社、相手方)の経営に与える影響の判断

自社の仕入先に対する支払は、主に経営状況の悪化した取引先からの受取手形の割引金で決済していた。  しかるに、取引先の倒産等に備え自社の支払手形の決済のための他の手段をあらかじめ講ずることもなく漫然と取引を継続した。

<考   察> 

取引先の事業に関する調査等をどのようになすべきか、また、それを行った結果により、取引を停止するなり、現金決済にするなり、いつどうするべきだと裁判所が考えるのか不明である。

また、取引先の倒産等に備え自社の支払手形の決済のための他の手段をあらかじめ講ずるべきであったといってもどんな手段を講ずるべきだと裁判所が考えるのか不明である。

結局、裁判所は、融通手形の振出についてはきわめて厳しい価値判断をしていることがうかがえる。取引先の事業に関する調査等の努力を払わなかったこと、自社の支払手形の決済のための他の手段をあらかじめ講ずる努力を払わなかったことを裁判所が問題視しているのはその現われであると考えられる。

本件においては、融通手形の振出を求められた時点で損害が拡大しないように取引を中止すべきであったと思われる。


投稿者名 管理者 投稿日時 2015年06月26日 | Permalink