Aさんが死亡すると,Aさんを被相続人とする相続が開始され(民法882条),遺言による遺産分割方法の指定が無ければ,相続財産ごとに帰属先が変わります。

可分債権・債務

 賃料債権,借入金債務といった財産は,判例上,当然分割対象財産として指定相続分又は法定相続分にしたがって各相続人に帰属します。つまり,相続人間での共有とはならず,遺産分割手続が不要です。
 もっとも,遺産分割手続において,相続人の合意を得られれば,遺産分割対象財産として取り扱うことも可能です。

祭祀財産

 系譜,祭具(仏壇・位牌・遺影),墳墓,遺骨等の祭祀財産は,相続承継の対象とならず,①被相続人の指定,②慣習,③家庭裁判所の指定(審判手続)の順で別途承継先が定められます(民法897条1項・2項)。

その他の財産

 当然分割対象財産・祭祀財産以外の相続財産は,相続人間での共有となります(民法898条)。そして,遺産分割の協議・調停・審判が確定すれば,相続開始時に遡及して遺産分割内容にそった相続人に帰属します。

相続債務の注意点

 相続債務の帰属先について,遺産分割手続で法定相続分以外の割合で相続人に帰属した場合でも,あくまでもその効力は相続人間でしか通用しません。したがって,債権者からは,法定相続分での債務負担を求められても拒否することはできないのです。


相続が発生した時、遺言が無い場合には、法定相続人による遺産分割協議を行ない、分割方法を協議しなければなりません。

遺産分割協議の前に・・・ 
相続財産(資産、債務)の確定、相続人の確定が必要です。

遺産分割協議の留意点
相続人全員の参加が原則 
 公平を担保する為。

特別受益
 相続人の中に生前贈与や遺贈を受けた者がいる場合、それらの財産の価格を相続財産に加算し、その合計額を「遺産」と仮定して相続分の計算をします。
 特別受益を受けた相続人の相続分は、上記「遺産」の自己の相続分から特別受益額を差し引いた残額となります。

寄与分 
 相続人の中に、被相続人の生前における財産の維持や増加、あるいは被相続人の療養看護などに特別の貢献があった者がいる場合、そのような相続人は法定相続分を超える額の遺産を相続することができます。
 寄与分の額については原則として相続人間の協議によって定められますが、協議がまとまらないときは、寄与をした者が家庭裁判所に対して寄与分を定める申立をすることができます。

  


 相続債務についての帰属先については,別記事で言及しました。
今回は,全財産をA(=推定相続人)に相続させる旨の遺言を遺した場合,相続債務についてはAに全て帰属するのか,法定相続分で他の相続人と当然分割されるのかという疑問についてです。

 この点は,判例が解決しています。すなわち,相続人の一人に全財産を相続させる旨の遺言がある場合,原則として指定を受けた者が相続債務を全て承継し遺言の趣旨から相続債務について指定を受けた者に全てを相続させる意思がないことが明らかである等の特段の事情がある場合は例外を認める余地があるということです。

 当該判例の射程を検討すると,相続人の二人に指定割合で全財産を相続させる旨の遺言があった場合でも,原則は指定を受けた二人が相続債務を指定割合にそって承継することになるでしょう。


1. 遺言に基づく指定分割
2. 協議分割
3. 調停分割
4. 審判分割

被相続人が遺言で分割方法を指定した場合 
 遺言の指定通り分割します(1. 遺言による指定分割)。

被相続人が遺言で分割方法を指定しておらず、分割を禁じていない場合 
 共同相続人全員の意思の合致がある限り、いつでもその協議で遺産の分割をすることができます(2. 協議分割)。

分割協議がまとまらない時や協議ができない時
 各共同相続人は家庭裁判所に分割の調停を請求できます(3. 調停分割)。
 調停分割では、調停委員又は家事審判官が話し合いの斡旋をしてくれることや、合意が成立した場合に作成される調停調書に、確定した審判と同様の効力があることが特徴です。

遺産分割調停が不成立となった場合
 審判手続に移行します(4. 審判分割)。
 審判分割では、審判官が各相続人の相続分に反しないよう分割を実行します。

 


 相続財産の中に預貯金債権が含まれる場合,従来の判例では,これを可分債権と判断して遺産分割手続によらず,法定相続分又は指定相続分に従って相続人に当然分割されていました。しかし,最大決平成28年12月19日にて,判例変更がされました。

預貯金債権は遺産分割対象財産

 上記大法廷決定は,「共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象になるもの解するのが相当である。」と判示しています。

預貯金債権を遺産分割前に使用したい場合(補足意見)

 遺産分割対象財産となってしまった預貯金債権は,遺産分割前には単独で当該財産を利用することができなくなります。その結果,相続債務の弁済資金としての利用や,被相続人から扶養を受けていた共同相続人の当面の生活費捻出にも,共同相続人全員の同意が必要となってしまい,不都合が生じる懸念があります。
 上記大法廷決定の補足意見では,保全処分(仮分割の仮処分:家事事件手続法200条2項)による対応が提起されています。

相続開始後の増加残高分の帰属先(補足意見)

 相続発生時の残高が相続財産として共同相続人が準共有することには争いがありませんが,相続開始後に入金等で増額した部分の帰属については,可分債権とすると別異に考える必要がありました。
 上記大法廷決定では,「共同相続人全員で預貯金契約を解除しない限り,同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在する」と判示されています。これを受けて補足意見では,全体が遺産分割の対象になると指摘しています。
 また,①相続開始後に相続財産から生じた果実,②相続財産を相続開始後に処分して得た代償財産,③可分債権の弁済金等が入金された場合,いずれも入金後の合算額が遺産分割の対象となる旨指摘しています。


●農地
 通常、農地については一定の資格を有する者(農業従事者等)しか農地を所有することはできないが、相続によれば農業従事者以外の者も所有権取得が可能です。
 しかし、農地を細分化してしまうと農業経営に支障をきたすことが多いため、農地については、相続人のうち、農業を承継する者にこれを相続させることが必要でしょう。

●経営会社の株式
 被相続人が経営していた会社の株式については、今後の経営支配をどうするかを考慮して分割しないと、株主となった相続人間で経営上の意見が一致せず、会社の存続に重大な影響を及ぼすことがあるため、特別の配慮が必要です。

●祭祀供用物
 現行法上、系譜・祭具及び墳墓等の祭祀供用物は相続とは別個の物として、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継することになっています。


1 現物分割
 遺産をあるがままの姿で分割する方法で、分割の原則的方法。
※ 遺産の評価が必要。現金や預金などの金額が明らかなものの他、不動産や骨董品などの特殊な権利などについては鑑定評価が必要。

2 代償分割
 1人もしくは数人の共同相続人にその者の相続分を越える遺産を現物で取得させ、その代わりに、相続分に満たない遺産しか取得しない他の相続人に対する債務をも負担させる方法。
※ 代償分割に必要な要件(大阪高裁判決S54.3.8)
 ・ 相続財産が細分化を不適当とするものであること。
 ・ 共同相続人間に代償金支払の方法によることについて争いがないこと。
 ・ 相続財産の評価が概ね共同相続人間で一致していること。
 ・ 相続財産を取得する相続人に債務の支払能力があること。

3 換価分割
 遺産を処分してその対価を相続人で分割する方法。
※ 現物分割や代償分割によることが困難もしくは相当でない場合にとられる。


一筆の土地を兄弟2人で相続した場合、法定相続分によりそれぞれの持分は2分の1なので、このまま2名の共有で相続登記(相続による所有権移転登記)することも可能です。
しかし、長男はその土地を売却したい、次男は他人に貸して収益を得たい、など相続人間で使用目的が異なる場合には、その土地を分割(分筆)し、各相続人の単独所有とする必要があります。
このとき、先に共有名義で相続登記した場合、

1.被相続人から相続人2名への相続登記
2.遺産分割協議書の作成および境界確定・分筆
3.分筆したそれぞれの土地について、共有物分割による所有権移転登記

という流れで、無駄な時間と費用がかかります。
このような場合には、被相続人名義のまま境界確定・分筆し、遺産分割(共有物分割)すれば、以下のようにスムーズに済ませることができます。

1.遺産分割協議書の作成及び境界確定・分筆
2.分筆したそれぞれの土地を、遺産分割協議書のとおり相続登記


1 保険金の受取人として、特定人が指定されている場合 
 この場合、受取人が生命保険金請求権を自分の固有の権利として取得し、保険金請求権は相続の対象にはなりません。

2 保険金の受取人が「相続人」となっている場合
 この場合の受取人表示は、保険契約者の相続人たるべき個人を表示するものにすぎず、保険金請求権は相続財産に含まれないとする最高裁判例があります(最判昭和40年2月2日)。

 このように、生命保険金請求権を、保険金受取人の固有の権利であるとすると、保険金受取人は、遺産分割とは別に保険金を受け取ることとなるため、生命保険金が高額に上る場合には相続人間の公平を著しく欠くことになります。
 これを調整する方法が「持戻し」であり、持戻しの対象とされたものは、遺留分減殺の対象となります。


相続人Aが現金300万円を、Bが現金300万円を、Cが300万円の売掛金(返済期限到来済み)を相続した場合

仮に、売掛金の債務者がCに300万円を返済できなかったとすると、他の相続人であるA及びBは、相続分に応じて担保責任を負わなければなりません。
この場合、AとBはCに対してそれぞれ100万円(300万円×1/3)ずつ負担しなければなりません。
(民法912条1項)
なお、遺産分割当時の債務者の資力を担保すればよいとされていますので、遺産分割当時、債務者に150万円の返済能力しかなかったとすると、A及びBはCに対し、それぞれ50万円(150万円×1/3)ずつ負担することとなります。
(民法912条2項)


【事例】
 AB間で甲土地の売買をしたが,移転登記手続未了の内にBが死亡(遺言書なし)した場合を想定。
 Bの相続人は,配偶者C,長男D,次男Eを想定。
 
 このような場合,B死亡に伴う相続発生により,甲土地買主の地位が相続人であるC・D・Eに承継されます。そのため,売主Aから相続人C・D・Eへ移転登記(遺産共有状態のため,C・D・Eの相続分に応じた持分移転登記となります。)をすることが可能です。その際,売買関係書類と相続関係書類の両方必要となります。遺産分割協議によって,Cが単独で取得することになった場合には,AからCへの所有権移転登記手続を経ることも可能です。その際,上記書類に加え,遺産分割協議書も必要になります。
 ただし,売主Aが相続人らへの移転登記を拒否した場合,相続人らが自分名義の登記をするには,所有権移転登記請求訴訟を提起し勝訴した上で,移転登記手続をすることになり,手間が増えてしまいます。登記手続を放置しておくと,取得時効の成立によって第三者に所有権が奪われてしまったり,登記名義人に悪用される虞もありますので,なるべく早く専門家に相談することが望ましいでしょう。


遺産分割協議は、相続人全員の参加が必要です。
 しかし、相続人の中に認知症など、精神上の障害のため、常に物事の是非を判断する能力を欠く方がいる場合、これらの方には意思能力がないため、遺産分割協議を進めることができなくなってしまいます。
 そこで、こういった方については、家庭裁判所に後見開始審判の申立を行い、成年後見人を選任してもらう必要があります。
 その後、成年後見人が成年被後見人(意思能力がなく、後見してもらう人)を代理して遺産分割協議に参加し、協議がまとまれば、それに基づいて遺産である不動産の名義変更や預貯金の払い戻しが可能となります。
 なお、成年後見人は成年被後見人にとって不利な内容の協議をすることはできません。
 したがって、特別な事情がある場合を除き、成年被後見人が法定相続分を確保できるような遺産分割協議をすることが望ましいと言えます。


 遺産分割の当事者は相続人であるため(民法907条1項)、遺産分割をするにあたって、まず当事者である相続人の範囲を確定する必要があります。

 相続には順位が決められており、先順位の相続人がいない場合(相続放棄、欠格、排除の場合を含む)に、次順位の相続人に相続権が生じます。

(1)第1順位の相続人=子
 被相続人に子があれば、その子(胎児を含む)は第1順位の相続人となります(民法887条1項)。
 相続開始以前に相続人たるべき子が死亡しているときは、その者のさらに子(被相続人の孫)があれば、その子が相続人となります(民法887条2項)。これを代襲相続といいます。
 相続開始以前に代襲相続人も死亡しているときは、その者のさらに子(被相続人のひ孫)があればその子が相続人となります(民法887条3項)。これを再代襲相続といいます。

(2)第2順位の相続人=直系尊属
 被相続人に子ないし代襲者がいない場合は、直系尊属(被相続人の親など)が相続人となります(民法891条1項1号)。

(3)第3順位の相続人=兄弟姉妹
 第1順位、第2順位の相続人がいない場合には、兄弟姉妹が相続人となります(民法889条1項2号)。
 相続開始以前に、相続人たるべき兄弟姉妹が死亡していても、その兄弟姉妹に子がいれば、その子が代襲して相続人となります(民法889条2項、887条2項)。ただし、兄弟姉妹の代襲相続においては、再代襲は認められません。

(4)配偶者=常に相続人
 被相続人の配偶者は、上記(1)?(3)の順位で決まる相続人と並んで常に相続人となります(民法890条)。
 例えば、被相続人に配偶者がいて、さらに子がいれば、その子と配偶者とが共同相続人となり、子はいないが親が生きている場合には、その親と配偶者とが共同相続人となります。


・株式
株式は、相続により共同相続人の準共有(民法264条)に属します(準共有とは、数人が共同して、所有権以外の財産権を有する状態をいいます)。すなわち、株式の名義書換え等の処分は相続人全員の合意を前提として行われる必要があり、分割の合意がまとまるまでは、各相続人は、株券発行会社又は株主名簿管理人(信託銀行など)に対して単独で自己の法定相続分に応じた株式の名義書換えを請求することはできません。
分割の方法としては、遺産分割協議、調停、審判、共有物分割請求手続きなどがあります。
 特定の者が取得するという合意が調った場合には、株券発行会社に対し、被相続人から相続人への名義変更の手続きをとることになります。
株券が証券会社の保護預かりとなっている場合には、名義変更手続きはその証券会社の窓口で行ないます。

・預金債権(金銭債権)
株式と違い、預金債権などの金銭債権は、相続開始とともに当然に法定相続分に応じて各相続人に分割される、というのが判例の考え方です。この立場によると、遺産分割を待つまでもなく各相続人が単独で自己の相続分についての払戻請求ができることになります。
ただし実際の実務では、銀行等金融機関は、相続人全員の同意が確認出来ない限り個々の相続人からの法定相続分に応じた預金の払戻しには応じていませんので、相続人全員の同意書や遺産分割協議書、または銀行所定の払戻請求書に相続人全員の印鑑証明書を添えて提出することなどが必要となります。


遺言が無い場合、相続人全員で遺産分割協議をすることになりますが、遺産分割協議には相続人全員が参加する必要があります。
もしある相続人が行方不明で遺産分割協議に参加できない場合は、行方不明者の財産を管理する不在者財産管理人を家庭裁判所で選任してもらい、不在者財産管理人が家庭裁判所の許可を得て、遺産分割協議に参加することになります。この場合、不在者(行方不明者)にとって不利な協議はできませんので、不在者の法定相続分は最低確保する必要があります。


 被相続人(A)の遺産分割に際し、その遺産分割協議には相続人全員が参加する必要がありますが、ある相続人が蒸発(家出)などをして7年間生死が不明の場合、遺産分割協議に相続人全員が揃わないことになりますので、失踪者について失踪宣告の申立をします。
 家庭裁判所で失踪宣告が出ると、その失踪者(行方不明者)は死亡したものと扱われます。失踪宣告により失踪者について相続が開始するので、失踪者に子供がいる場合は、その子供が代襲相続人としてAの遺産についての遺産分割協議に参加する必要がありますが、失踪者に代襲相続人がいなければ、他の相続人だけでAの遺産について遺産分割協議をすることができます。


 相続開始後、遺産分割の前に、自己の相続分を他の相続人又は第三者に譲渡することを言います。
 相続分の譲渡は、遺産の中の特定の財産または権利に関する持分を譲渡するのではなく、遺産全体に対する割合である各相続人の相続分、すなわち相続人の地位そのものを譲渡することです。ですから、相続分の譲受人は相続人としての地位を取得し、遺産分割に参加することができます。
 相続分の譲渡が行われるケースとしては、遺産分割を待たずに現金を手に入れることを目的とする場合などが考えられ、共同相続人のうちの一人が他の共同相続人に自己の相続分を譲渡することもあれば、共同相続人以外の第三者に譲渡することもあります。


共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したとき(※「相続分の譲渡」欄参照)でも、他の共同相続人は、1か月以内に、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができます(民法905条第1項)。
 相続分の譲渡がなされた場合、その譲受人は相続人と同じ地位に立って遺産の管理や遺産分割の手続きに参加することができることになるので、相続分の譲受人が共同相続人以外の第三者であった場合、全くの他人が遺産の管理・分割手続きに関与してくることになり、遺産分割手続きが円滑に行なえないなどのトラブルが発生する可能性があります。そこで民法では、一定の要件の下に相続分取戻権を認めているのです。
 取戻権の行使は譲受人に対する一方的な意思表示で行うことができ、相手方の承諾は必要ありません。しかし、譲渡された相続分を取り戻すには、相続分の価額(取戻権を行使する際の時価)および譲受に要した費用を償還して行うことが必要です。相続分の価額については、無償で譲渡されたものであっても必ず提供することが必要です。
 相続分の取戻権の行使によって譲渡の対象となる相続分の帰属先がどうなるのかについては、学説上、共同相続人に元々の相続分に応じて分属するという見解と、取戻権を行使した人のみに帰属するという見解とがあります。


 「相続分のなきことの証明書」は、相続人が、相続によって受け取る財産はないということを表示するものです。
 遺産分割協議が終わっていない段階で相続を原因とする所有権移転登記の申請をする時などに、正式な相続放棄の手続きや遺産分割協議書の作成などに代わる簡単で便利な方法として、登記所に提出する添付書類に利用されます。
 「相続分のなきことの証明書」に署名し判を押すことは、自分には相続分がないということを事実上認めたことになりますが、正式な相続放棄の手続きではありません。つまり、「相続分のなきことの証明書」に署名捺印していても、被相続人が生前借金していた債権者から、相続人としての返済を要求される可能性などもあり得るということですので、注意が必要です(※「相続分放棄」欄参照)。


 「相続分放棄」は、積極財産を相続しないという意思表示ですが、それによって相続人としての地位は失いません。そのため、相続分の放棄をしても借金などの相続債務を免れることはできません。不動産の登記名義だけを簡易に変更する際に使用する「特別受益証明書」(相続分なきことの証明書)などが相続分放棄の一例です(※「相続分のなきことの証明書」欄参照)。
 この点で「相続分放棄」は、積極財産(プラスの財産)も消極財産(マイナスの財産)も含め、一切の権利義務を相続しないという「相続放棄」とは異なります(※「相続放棄」欄参照)。
 債権者や他の相続人の承諾なくして、放棄者の相続分を移転させる効果を生ずるような相続分の放棄を認めることはできません。
 一方、積極財産のうち個々の相続財産上の共有持分を放棄することはいつでも可能です。
 個々の相続財産について共有持分の放棄がなされた場合は、放棄した相続人の共有持分は、他の相続人にその有する相続分に応じて帰属することになります。 また、個々の積極財産の共有持分の放棄にすぎないため、相続債務の負担は免れません。
相続人が相続分を放棄するという意思を表明した場合であっても、個々の遺産の共有持分の放棄であるか、他の共同相続人に対する相続分の譲渡(※「相続分の譲渡」欄参照)であるかによって違いがあるため、それがどちらに当たるのかを確認する必要があります。


 親の死亡によって相続が開始したが、貯金通帳を持っている兄弟が勝手に親の預金から引き出してしまっている心配がある場合、親の預金残高がいくら残っているのか知りたいといった場合、預金口座のある金融機関に対して、預金取引記録の開示を請求するという方法が有効です。金融機関から預金取引記録が開示されれば、現在の預金残高や、いつ幾ら引き出されたか等の情報が明らかになるからです。
 従来、一人の相続人が単独で、預金取引記録の開示請求ができるかについては争いがあり、金融機関によっては開示請求を拒否することもあったようです。
 ところが、最高裁判所は平成21年1月22日の判決で、「金融機関は、預金者の共同相続人の一人から単独での取引履歴の開示請求に対しても、開示する義務を負う。」と判断したため、相続人は、兄弟など他の相続人の協力が無くても、単独で金融機関に預金取引履歴の開示を請求できることになりました。
 遺産分割の話し合いの前提として親の預金について把握しておきたいなどという場合、この方法を利用されてはいかがでしょうか。


 特別縁故者とは、被相続人と内縁関係にあった配偶者や、生計を同じくしていた人、療養介護に努めていた人(お世話になった老人ホームや菩提寺などの法人に認められる場合もあります。)など、戸籍上は相続権がないものの、被相続人の生前、特別の関係にあった人のことをいいます。 

 特別縁故者が被相続人の相続財産を受け取る方法として、次のような方法があります。

1.遺言による遺贈 
 被相続人が亡くなる前に、遺言書で財産を相続させる旨を明記してもらう方法です。遺言書で指定すれば、法定相続人以外の第三者にも財産をゆずることができるので、最も分かりやすく確実な方法と言えます。
 ただし、相続開始後のトラブルを防ぐため、他の相続人の遺留分を侵害しないように注意する必要があります(「遺留分」の欄参照)。

2.贈与(死因贈与)契約
 先に述べた「遺贈」が被相続人から受遺者に対し一方的に行なわれるものであるのに対し、「死因贈与」は被相続人と受遺者との間で「私が死んだら財産をあげます」「もらいます」という合意に基づいて行なわれる契約です。
 なお、死因贈与での取得は、贈与税ではなく相続税の対象となります。
 また、この場合も他の相続人の遺留分を侵害しないように注意する必要があります。

3.特別縁故者制度
 被相続人の死後、被相続人に親族の身寄りがなく法定相続人が全く見当たらないという場合に、上記の者(内縁の配偶者や介護に努めていた人など)が特別縁故者として家庭裁判所に申し立てることにより、相続財産を得ることが認められる場合があります(申し立ては、相続人を捜索するための公告で定められた期間の満了後3ヶ月以内にする必要があります)。
 家庭裁判所は、縁故の度合いや献身の度合い、生活状況などさまざまな事情を調査し、財産分与を認めるかどうかを判断します。
 ただし、既に述べたように、この申立は被相続人に相続人がいないことが条件となります。そのため、相続人調査によって相続人の存在が明らかになればその相続人が相続放棄しない限り申立はできませんし、行方不明の相続人がいた場合は、利害関係人が別途家庭裁判所に失踪宣告の申立をし、認められることが必要です(「相続人の失踪宣告」欄参照)。

4.不当利得返還請求 
 長年被相続人と共に生活し財産の形成に貢献してきた内縁関係にある者が、被相続人の財産を相続した相続人に対して不当利得返還請求訴訟を提起し、財産分与を請求するという方法もあります。

 ちなみに、相続人がまったく見当たらず、特別縁故者として財産分与を申し立てる者もいなければ、相続財産は国庫に帰属することになります。


 遺産分割協議書は、全相続人間で遺産の分割内容について確認及び合意したことを証明する書類であり、遺産である不動産や預貯金などの相続登記等の処理や相続税申告の際に必要となるなど、非常に重要な書類です。
 ここでは、一般的な書式についていくつか説明します。

(1)
 不動産、有価証券、預貯金などの財産及び負債について、登記簿謄本や証券、通帳などを見ながら正確に詳細を記載する必要があります。
 また、遺産分割協議書には、被相続人の全ての財産・債務をもれなく記載することが必要であり、後に判明したものがあれば、その財産・債務について再度遺産分割協議が必要になります。
 ただし、相続人間で合意があり、遺産分割協議書に『本協議書に記載なき遺産並びに後日判明した遺産は、相続人○○が全てこれを取得する。』という旨の記載があれば、後日、遺産が判明しても分割協議をする必要がなくなります。

(2)
 誰が何をどれだけ相続するかを記載します。
 「相続人○○が△△分の△、相続人○○が△△分の△の割合でそれぞれ共有取得する」「相続人○○は、債務も含め、全ての遺産を相続する」など。

(3)
 代償金(特定の相続人が財産を多く取得する代わりに、他の相続人に払う現金等のこと)があれば、それについても記載します。

(4)
 原則として共同相続人の人数分の協議書を作成し、共同相続人全員が連署の上実印を押印して各自各1通を保有します。
 なお、遺産分割協議書が複数枚にわたる場合は、ページ番号の有無にかかわらず、全ページ間に共同相続人全員の割り印が必要です。
 また、全員の印鑑証明書を添付します。


 遺産分割協議書には、共同相続人全員の実印を捺印した上、全員の印鑑証明書を添付する必要がありますが、海外在住で日本に住民票がなく、印鑑証明書がとれないケースがあります。
 そのような場合、日本大使館・総領事館発行の「サイン証明書」や「拇印証明書」を添付するだけでは、何の文書に記載・押印したサインや拇印についての証明かが不明確であり、証明書としては不十分です。
 こういった場合には、遺産分割協議書に海外在住共同相続人が署名捺印した上、それを日本大使館・総領事館に当該相続人本人が持参し、面前で領事による「この拇印は確かに本人のものである」という確認を受け、その旨の証明書を発行してもらう必要があります。


 遺産分割協議成立後、遺言書(形式など、法的効力に問題がないことを前提とします)があったことが判明し、その内容が遺産分割協議で決定した内容と異なっていた場合、遺産分割協議と遺言とのどちらが効力を有するかが問題となります。
 遺言は時効により消滅することはなく、法定相続分に優先しますので、協議した内容と異なる遺言が出てきた場合は、遺産分割協議の内容は原則として無効になります(相続人は、「遺言書があることを知らなかったので遺産分割協議をした」と錯誤を主張して、遺産分割協議の無効を主張することができます)。
 ただし、相続人や受遺者(遺言により遺贈を受ける者)『全員』が、遺言と異なる協議の内容に同意する(以前した協議と異なる内容の遺言が見つかったが、協議をやり直さないことに同意する)旨の意思表示をした場合は、遺言を無視して以前の協議内容を採用することが認められます。
 ※ なお、遺言により相続人資格に変更を生じる場合など、特殊なケースについては別に述べます。
 
 上記のような問題を避けるため、遺産分割協議前に遺言書の有無を調査する必要があります。自筆遺言証書の場合は、保管場所が分からないだけでなく遺言書の有無自体も確認が難しいことがあり得ますが、公正証書遺言であれば公証役場で管理されていますので、被相続人の死後、相続人や受遺者などの利害関係人が公証役場で問い合わせれば、公正証書遺言があるか、どこの役場で作成したかを知ることができます。


 遺産分割協議後に見つかった遺言が、相続人資格の変更にかかわる内容であった場合について、以下に例を挙げて説明します。

(1)子を認知する旨の遺言の場合
 この場合、遺言発見前になされた遺産分割協議の段階ではまだ認知の事実が判明していないため、被認知者が除外されているはずですが、被認知者を除外してなされた分割協議も無効ではなく、価額賠償の請求ができるのみ(被認知者は、遺言適用による相続分の主張をすることはできない)であるとする説が有力です(民法910条の類推適用)。

(2)相続人のうちの誰かを廃除する旨の遺言の場合
 この場合、遺言に廃除の記載があるだけで直ちに廃除の効力が生ずるのではなく、家庭裁判所による廃除の審判が確定することで効力が生じます(「相続廃除」欄参照)。
遺産分割協議をなした相続人の1人につき廃除の審判が確定した場合は、「相続人でない者を加えて遺産分割がなされた場合」として、その分割協議の効力が判断されることとなります(「相続人でない者を加えて遺産分割協議をした場合」欄参照)。

(3)相続人の廃除を取消す旨の遺言の場合
 廃除の取消しの遺言も、(2)廃除の遺言と同様、家庭裁判所による廃除の取消しの審判が確定することで取消しの効力を生じます。
 廃除されていた者が除外されて遺産分割協議がなされた後、遺言に基づいて廃除の取消しの審判がなされた場合には、相続人の一部を除外して分割協議がなされたことになるため、このような分割協議は無効となります。


 相続人でない者を加えた遺産分割協議には、(1)遺産分割時からそもそも相続人でない者(表見相続人など)を相続人として加えて協議を行なった場合と、(2)分割協議当時は相続人であった者が、分割協議成立後に相続資格を喪失した場合とがあります。
 (2)のケースとしては、婚姻無効判決、縁組無効判決、嫡出子否認判決、親子関係不存在確認判決、認知無効判決など、被相続人と当該相続人との血縁関係を否定する判決が確定した場合や、相続欠格による相続権不存在確認判決、廃除審判の確定など、相続人資格を法的に剥奪する認定がなされた場合などが挙げられます。

 次に、相続人でない者を加えた分割協議の効力について、以下2通りに分けて記載します。
1.相続順位に変更をきたす場合
 相続人でない者を遺産分割協議に加えていた結果、正当な相続人が遺産分割協議に参加していなかったという場合があります。例えば、被相続人の妻と子Aが共同相続人として遺産分割協議をしたが、その後被相続人(子Aの父)と子Aとの親子関係不存在訴訟が確定した場合などです。この場合、共同相続人は、妻と、子Aの次順位者である被相続人の父母(父母がいなければ兄弟)となりますが、遺産分割協議は妻と子Aとでなされており、父母(又は兄弟)は協議に参加していません。
 このような場合には、共同相続人の一部を除外してなされた遺産分割協議となるため、無効と解するべきとされています。
2.相続順位に変更をきたさない場合
 この場合についても当然無効とする説もありますが、近時は、非相続人(分割協議後に、相続人でないことが判明した人)に分割された財産を取り戻した上で、これを未分割遺産として真正相続人間で分割すれば足りるとする説が有力です。もっとも、非相続人に分割した遺産が重要なもので、当初の分割協議の効力を維持することが不当であるような場合には、当初の遺産分割協議を無効とするのが妥当でしょう。


財産を分割する方法には、現物分割、代償分割、換価分割 の3つの方法があります。
(本HPの相続サポート内の「遺産分割協議?遺産を分割する方法」をご参照ください。)

(1)現物分割
 被相続人の財産を、相続人間で話し合って分割する方法です。

しかし、遺産のほとんどが不動産である等、個々の財産の価値に差があったり、物理的に分割が困難である場合があります。このような場合は、代償分割、換価分割の方法が有効となります。

(2)換価分割
 遺産である不動産を売却して得た金銭を分割する方法です。

(3)代償分割
 共同相続人のうちの特定の者が遺産である不動産を取得し、その相続人が、自己の固有財産を、相続分に満たない遺産しか取得していない他の相続人に与える方法です。
 代償分割の方法は、他の相続人の権利を侵害することなく、又、遺産である不動産を分割せずに、特定の相続人が取得できるので、主な遺産が自宅のみの場合や、店舗・事業用不動産の場合など、分割しにくい財産の分割方法として有効となります。

(なお、代償交付財産が、相続人固有の不動産の場合には、履行時の取引価額(時価)によりその資産を譲渡したものとみなされ、代償分割者に対して譲渡所得税が課税されます。)


一般的に、結婚した女性の場合、実家の両親、夫の両親、夫、そして自分自身と、多ければ6回も相続に関わることになります。それも、娘、嫁、妻、母という異なる立場でです。

「自分自身の相続」というのは、もちろん「相続される側」としての相続です。自分の死後、親族間で無用の争いを避けるため、ある程度の年齢に達したら遺言の準備や財産の整理が必要となってきます。

相続は愛する方との決別であり、しばらくは悲しみと不安で放心状態になります。
また、兄弟や親族と喧嘩別れしてしまうこともあります。
しかし、女性にとって相続は、夫や親からの自立、独立を促すものであり、しかもそれなりの財産を受け取ることでもあります。
介護や責任を果たし、自分自身の生活を再スタートさせるチャンスと言えるでしょう。
私たちは、法律の専門家という立場から、これからの人生の基盤を作る方の手助けをしたいと考えております。