3 社外監査役による業務監査における判断基準(一般論)

 - 経営判断の法則(原則) (business judgment rule)  

(1)
アメリカ法においては、経営判断の法則(原則)が判例法として形成発展してきている。その内容は、一般的に次のように理解されている。

すなわち、取締役が経営判断を誤って会社に損害を与えても、下記条件を充たすかぎり注意義務違反による損害賠償責任を負うことはない。

1. 当該判断につき取締役が個人的利害関係をもっていない
2. 会社に対して詐欺的行為、不誠実な行為をしていない
3. 重大かつ明白な判断の誤りであるとみられない

なお、法令違反の経営判断は、経営判断の法則によって保護されない。

(2)
これに対して、日本法において経営判断の法則がどのように適用されているかは検討を要する課題である。日本の法律の上でも学者の多くがこれを認め、 下級審判例にこれを正面から認めたものも数件あるとされる(「月刊監査役」NO.328 p.16)。

今井宏姫路独協大学教授は、次のように経営判断の法則の要件を提示している。

1. 法の強行規定に違反しないこと
これは、法律の適用を経営者の判断で排除することはできないからである。
商法の強行規定違反のケースとして三井鉱山事件がある(最高裁一小法廷 平5.9.9判決. 判時1474.17)。    
今井宏教授は、独禁法違反の場合も含むとする。
この点では損益相殺の可否とは基準が異なると考えられる。
 ※ 損益相殺の可否

a 東京地裁 平5.9.16判決(判時1469.25) 野村証券損失補填株主代表訴訟
「不当な利益による顧客誘引に該当する行為(独禁法違反)によって会社が被った損害を認定するに当たっては、(中略)その行為によって会社 に生じた利益をも総合考慮してこれを行うのが相当である。(贈賄行為については、それが会社の利益になったとしても、その支出は公序良俗に反し許されない ものであって、支出額が直ちに会社の損害となるというべきであるのとは異なる。)」とし、損益相殺を認めた。

b 最高裁一小法廷 平5.9.9判決(判時1474.17) 三井鉱山株高値買戻損害賠償訴訟
吸収合併したことにより生じた業績回復、復配、株主安定化などの利益は、自己株式取得との間に相当因果関係がないとし、損益相殺を認めな かった。

2. 当該経営判断に関して取締役の個人的利害関係が絡んでいないこと

3. 経営上の決定をする前に、十分な調査、入念な検討、慎重審議をなすこと


投稿者名 管理者 投稿日時 2015年06月26日 | Permalink