面会交流条件の取り決め

 面会交流の実施条件は,①日時・頻度,②実施時間の長さ,③子の引渡方法等を中心に定めますが,どの程度に定めた方が良いのでしょうか。

実務の現状

 従前の実務では,「月1回程度の面会をすることを許さなければならない。具体的日時・場所・方法等については事前に協議しなければならない。」という抽象的記載に留めることが通常でした。その背景には,面会交流は,監護親と非監護親の協力の下に実施されることが望ましと考えられていたためです。
 しかし,こうした抽象的処分の場合,細かな部分を父母に委ねることになるため,両者の葛藤が強い場合,まともに取り決めができず,実施が困難になるケースが散見されます。また,不当に拒否する監護親に対し,実施を促す方法として間接強制(不履行1回につき数万円の制裁を科す)が予定されていますが,監護親が実施すべき協力義務の内容が特定していないと当該手法は採れず,不当拒否を許してしまう温床となっていました。
 現在の実務では,間接強制を認めた最高裁判例が出たことで,積極的に具体的処分として細かな取り決めを進めていこうとしています。

間接交流が可能な条項

面会交流の日時又は頻度

 「第○日曜日」といった特定が一番望ましいですが,「1か月に2回,土曜日又は日曜日」といった定め方でも特定十分と考えられています。予定日に実施できなかった場合の代替日も特定しておくと良いでしょう。
 頻度の相場としては,月1回程度と判断されることが多いですが,子の成長に応じて段階的に増加させていくような取り決めが理想です。

各回の面会交流の長さ

 開始時刻から終了時刻まで特定することが望ましいですが,「1回につき2時間」といった定め方でも特定十分と考えられています。
 非監護親としては,宿泊を希望する方も多いですが,監護親が同意しないことが多く,審判移行時に認められるケースは少ないでしょう。経験上も,同居期間中に非監護親の実家で定期的に宿泊を実施している等,実施場所での宿泊に耐えうるような実績がある場合を除き,許容されなかったケースが多いです。

子の引渡方法等

 一番細かい特定が必要なのは引渡方法で,引渡しの時間・場所は当然のこと,方法については各当事者の行動内容まで具体的に定めておくべきです。
 この外,立会人を要するのか,父母ではない補助者に引渡手続の代行を認めるのか,も記載しておくべきでしょう。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2017年07月20日 | Permalink

清算的財産分与の対象(総論)

 夫婦の財産を法的観点から分類すると,以下の3種類に分けることができます。
 ①婚姻前から各自が所有していた又は婚姻中に親から相続した財産など「名実ともに単独所有の財産」=『特有財産
 ②夫婦が婚姻中に資金を出し合って購入し,登記も共有名義とした不動産など「名実ともに共有の財産」=『共有財産
 ③夫婦が婚姻中に協力して取得した住宅や共同生活の基金とされる預金債権など「名義は一方に属するが実質的には共有の財産」=『実質的共有財産
 まずは,これらのうち,どれが清算的財産分与の対象となるのか,検討していきましょう。

共有状態の解消と言う観点

 財産分与請求権は,婚姻中に形成した財産の分割を求める形成権であり,そのような形成を求める実益は,共有物分割請求や遺産分割請求と同様に,対象財産が共有状態にあることからの解消を求める点にあります。
 そのため,対象財産は,共有財産となります。特有財産は,財産分与の対象外となります。

夫婦別産制との関係

 民法762条1項は,「夫婦の一方が婚姻前から有する財産」と「婚姻中に自己の名で得た財産」は,特有財産であると定めています。他方で,同条第2項で「夫婦のいずれに属するか明らかでない財産」は共有財産であると法律上推定されます。
 「婚姻中に自己の名で得た財産」については,夫婦間の体内関係においては,単に名義が夫婦の一方に属するというだけでは該当せず,単独所有であると証明できた財産,すなわち他方配偶者の寄与が全く存在しない財産であると証明できる物に限定解釈されています。
 そのため,実質的共有財産についても,財産分与の対象に原則として含まれることになり,例外的に単独所有であると証明できた場合には例外的に対象外となります


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2017年01月14日 | Permalink

財産分与請求権の法的性質

 離婚紛争が増加する中で,離婚時に婚姻期間中に形成した財産の分割を求める手段として財産分与という制度が存在することは,広く周知されてきています。今回は,財産分与請求権(民法767条1項)について,少し掘り下げて見てみましょう。

 財産分与請求権の権利性

 財産分与請求権は,「離婚をした」当事者が請求できるものであり,一般的には離婚請求と同時期に行使されます。
 財産分与請求権は,権利行使可能期間が“離婚成立時から2年”に制限されていますが(民法768条2項但書),当事者の協議成立又は審判・調停があるまでは,具体的な内容が金銭請求なのか,特定不動産の引渡請求や登記手続請求なのか,つまるところ範囲及び内容が不確定・不明確な形成権です。
 不確定・不明確な段階では,たとえ当事者の一方が無資力状態であっても,債権者が債権者代位権によって代わって行使することはできないと考えられています。

財産分与請求権の内容

 財産分与請求権の構成要素には,①婚姻期間中に形成した財産の清算的要素,②離婚後扶養の要素,③離婚自体慰謝料の要素,以上3つが存在しており,個別に具体的分与額を算出します。
 優先順位は①と③が先行し,②については,①及び③だけでは生計維持が困難である場合にのみ認められます(補充性)。
 ③については,財産分与で考慮された場合,別途離婚自体慰謝料を請求できないのかという疑問点が生じます。この点については,判例にて財産分与での斟酌で精神的苦痛が全て慰藉された場合には別途請求することはできないが,財産分与での斟酌だけでは不足している場合には別個に慰謝料請求を実施しても良いとされています。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2017年01月14日 | Permalink

面会交流の権利とは

 離婚交渉の過程では,別居の上で交渉することが一般的な流れです。夫婦間に未成年者がいる場合,両親のどちらかが監護親として養育監護を継続し,他方が非監護親として未成年者と接触できない状況が生じます。
 この点の是正を図るのが,「父又は母と子との面会及びその他の交流」,通称“面会交流”です。

面会交流権の性質

 法律上は,離婚時に「父又は母と子との面会及びその他の交流」を定めると規定しており(民法766条1項,同771条),非監護親と未成年者との面会方法を協議・調停・審判で決定します。離婚前の別居状態であっても,同条項の類推適用により,実務では面会交流を実施しています。
 面会交流は,離婚時においても子の適正監護の観点からは,父母双方と接することが健全な発達に資するため,非監護親側が監護親側に対して子の監護のために適正な措置を求める権利として存在しているのです。

面会交流が子供に与える影響と裁判所の姿勢

 発達心理学の分野において,米国では統計上のデータに基づく文献が数多く存在しています。面会交流は,離婚後の未成年者のより良い心理的・社会的な保護要因であるという帰結の研究が進んでいます。日本は,実証的研究がまだ途上の段階です。
 また,未成年者が監護親とのみ結びつき,非監護親を激しく非難・攻撃して拒絶するという片親疎外現象(原因は,監護親の操作,非監護親の行動・性格,子供側の要素と複合的です。)が生じると,感情的になりやすく,対人トラブルを抱えやすいと指摘する文献もあるようです。
 こうした状況を踏まえ,現在の家庭裁判所側は,両親との離別が否定的な感情体験であり,非監護親との交流継続は,子供が精神的な健康を保ち,心理的・社会的な適応改善するために重要視している状況にあります。

子の利益を最も最優先すること

 平成23年の民法改正で,面会交流を判断する際には「子の利益を最も最優先すること」が明記されました。面会交流の主役は未成年者なのであり,非監護親は子の健全な発達成長のために面会交流をし,監護親はこれに協力することが,通常は子の利益の最大化につながるので,実施すべきと言うことになります。
 反対に言えば,面会交流実施が逆に子の利益を害するような場合,制限・禁止すべきとなります。例えば,①父母の対立又は葛藤が激しい場合,②非監護親が暴力をふるったり面会条件を破る等の問題行動がある場合,③子が非監護親と単独で接することが難しい事情がある場合,制限した審判例も存在するところです。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2017年01月07日 | Permalink

婚姻費用・養育費の算定方法

 婚姻費用・養育費の具体的な金額は,どのように定められるのでしょうか?
 法律上は,具体的な算定方法について明記されていません。過去には,事例毎に裁判所の裁量で決めていたこともありましたが,現在は一定の算定方式を基礎にして具体的数値を算出することが一般的です。

標準的算定方式

 現在の実務は,標準的算定方式(夫婦双方の基礎収入合計額を,夫及び妻並びに同居する子のそれぞれの最低生活費で按分する方法。基礎収入は,総収入から優先すべき公租公課・職業費・特別経費を控除したもの。)によって算定しています。
 上記方式は,当事者双方の総収入が判明すれば,簡易算定表が存在するため,概算結果を簡易迅速に把握することが可能です。⇒裁判所HPで公開されています。コチラ

標準的算定方式の修正

 標準的算定方式は,平成10年から14年までの統計資料に基づき,平成15年4月に公表されました。あくまでも,標準的な事案を想定した内容であり,簡易算定表も子供が3人までのものしか存在しません。
 したがって,4人以上の場合には個別に計算方式にて算出する必要がありますし,主として子供に関する特別な出費等が想定される場合には,その点を考慮して算出金額を修正する必要があります。
 調停・審判で問題になるのは,こうした簡易算定表では対処しきれない事案が多いというのが実感です。特別事情の考え方については,個別の記事で紹介させていただきます。

日弁連による新算定表

 標準的算定方式は,最高裁で是認されつつも,考慮されている統計資料が古くなってしまった点,総収入から住宅ローンや保険掛金等の有無を考慮することなく特別経費(住居関係費・保健医療及び保険掛金等)を控除している点,15歳を境界として生活費指数を変化させることは乳幼児と小中学生を同一区分にしてしまい生活事態とかい離している点等,批判も多く存在しました。
 これを受けて,平成28年11月15日に,日弁連が新しい算定方式及び算定表の提言をしています。⇒日弁連HPで公開されています。コチラ
 今後は,新算定表も,一つの算出根拠として拡散していくと思われます。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年12月28日 | Permalink