児童手当の受給

 児童手当は,家庭の生活安定と児童の成長促進を目的とした公的給付です。一般的な支給要件として,中学卒業までの児童を監護し,かつ,生計を同一にする父母が存在する必要があります(児童手当法4条1項1号イ)。
 実際の支給は,所得の高い方に行われます(同条2項)。そのため,父親が受給していることが殆どです。

離婚準備のために別居した場合の支給先

 妻が子供を連れて実家へ別居した典型的なケースで考えて見ましょう。所得の少ない妻にとっては,親族等の金銭援助が難しい場合,生活費として婚姻費用分担金の支給を受けられなければ,児童手当が生命線になることもまま見受けられます。
 この点,受給権者については,父母の一方が子供と同居し,他方が同居していない場合,同居親が受給権者になることを想定しています(児童手当法4条4項,内閣府Q&AのQ7参照)。そのため,上記ケースの場合でも,離婚交渉のために別居先で妻が児童手当を受給することは,制度自体が予定するところです。

実際の手続について

ア 別居先と従前住所が同一市区町村ではない場合

 児童手当は,法定受託事務として各市区町村単位で管轄されています(児童手当法29条の2)。そのため,支給する地方自治体に住民票があるか否かをもって,自庁で対応するか否かを決することになります。
 別居先の実家が従前の住所地とは別市区町村であれば,妻は自らと子供の住民票を予め移しておく必要があります。子供の住所が変わったことで,従前自治体での児童手当は支給事由が消滅し,夫側への支給が止まります。その上で,妻は,新たな住所地の役場に児童手当申請を行う形になります。

イ 別居先と従前住所が同一市区町村である場合

 支給する自治体に変更はないため,離婚協議中であることを示す証拠の有無によって,妻側が受給できるか否かに変化が生じます。

A 別居後離婚協議開始前の段階
 この場合,受給権者を夫から妻に変更するためには,①住民票上で世帯分離している等の別居関係が示されているか,又は②受給している夫から児童手当・特例給付受給事由消滅届を作成・提出してもらう必要があります。後者については,実際には夫の協力が得られないことが殆どです。

B 離婚協議開始後の段階
 例えば,名古屋市では,①協議離婚申し入れについての内容証明郵便の謄本,②離婚調停期日呼出状の写し又は③離婚調停の係属証明書の写し等を持参の上で区役所に赴けば,妻が単独で児童手当・特例給付認定請求書を作成提出し,受給権者の変更をすることが出来ます。
 当該運用は,多くの自治体で導入されている様子ですので,先ずは離婚調停を申し立てることが手続の第一歩と言うことになります。

ウ DV被害事案の場合

 上記ア・イの場合とは異なり,DV被害事案の場合には,加害配偶者側に対する住所秘匿の関係上,住民票移動も困難な状況になります。そのため,①裁判所のDV保護命令正本,②配偶者暴力支援センターや婦人相談所のDV証明書,③住所地の地方自治体による住民台帳閲覧制限の支援措置決定通知を資料として,子供を専属的に監護している環境にあれば,児童手当支給を実施する通達が出されており,これに沿って対応してもらえます。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年06月02日 | Permalink

住民票の移動

 別居した上での離婚交渉に際して,住民票の移動を行うか否か,事前に準備しておく必要があります。

住所の基本的知識

 住所とは,「生活の本拠」(民法22条)であり,「生活の本拠」がなければ「居所」が住所とみなされます(民法23条1項)。
 住所が変更した場合には,変更から14日以内に役場に対して,同一市区町村内での移動であれば転居届,それ以外であれば転出届と移動先役場への転入届を,提出する必要があります(住民基本台帳法22条~24条,怠ると同法52条1項で5万円以下の過料制裁を受ける可能性があります。)

住民票変更のメリット

①別居状態にあることを住民票で証明できる
 家事事件では,客観的な証拠が乏しく,離婚に向けて証拠収集活動が欠かせません。別居開始は,端的な婚姻関係破綻状況の事実関係であり,住民票での立証が可能になります。

②転入先自治体から児童手当等の公的給付を貰える可能性
 詳細は,児童手当の記事をご確認下さい。自治体毎に運用も異なりますが,支給自治体に住所を有していない場合,児童手当の受給が難しくなります。

③転入先自治体で国民健康保険証を作成できる可能性
 就労が困難な状況でも,自ら国民健康保険証を作成することが出来ます(身分証明書としても利用できます。)。ただし,従前,相手方の被扶養者資格で健康保険証を有していた場合,国民健康保険の加入資格を得られないので,要注意です。

④保育園・幼稚園・小中高学校の編入手続が容易になる
 保育施設・教育施設は,各市区町村が管轄であるため,住民票の移動があれば,手続は所定どおりの流れになりますが,住民票を有しない自治体で入所しようとする場合,原則的には受け入れてもらえず,保育園等で広域入所措置をとる場合には要件を満たす必要があったりと,ハードルが高くなります。

住民票変更のデメリットは少ない?

 相手方が弁護士等の専門家に依頼した場合,変更後の住民票を職務上請求して内容を把握できてしまう可能性があります。相手方からDV,ストーカー行為その他迷惑行為が実施されうる場合には,別記事にて言及した措置請求の実施や,住民票移動を控える選択肢も必要となります。
 メリットに比して,デメリットが少なく見えますが,DV案件は当然のこと,長期に亘って相手方にモラルハラスメント行為を受けていたような事案では,何よりも別居先住所を把握されることを危惧する方が多いのが実情です。

住民票変更の時期

 この点は,別居断行から可及的速やかに実施すべきといえます。
 妻が子供を連れて別居する典型的なケースで考えて見ましょう。当該ケースが親権について争いが生じる案件で,夫側としては,別居強行による監護状態継続を阻止するため,妻だけを住民票から世帯分離し,実家等に転居したと仮定します。その場合は,子供の保育施設・学校施設の入所資格が喪失したり,子供の保険証に関して夫側から提供を受けなければ利用継続が困難になります。別居後の養育環境が整わないと,時間を掛けて離婚交渉をする方法が奪われかねません。
 別居をする場合は,事前に住民票移動について準備しておくことが肝要です。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年06月02日 | Permalink

氏の変更許可審判

 親の離婚・再婚・養子縁組等で,親子の名字が異なってしまった場合,子供の名字を親と同じに変更するには,原則として①家庭裁判所の許可審判(民法791条1項)と②入籍届の提出(戸籍法98条1項)が必要です。また,これにより,子は当該親と同じ戸籍に入ることができます(戸籍法18条2項)。

 例外的に,親である父母が婚姻中であれば(離婚した親が再び婚姻した場合,父母が養子縁組した場合です。),②のみで可能です(民法791条2項)。ただし,子に配偶者がいる場合には,入籍届は当該配偶者と共に行う必要があります(戸籍法98条2項)。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2015年09月29日 | Permalink