労基法32条の労働時間か否か

 時間外手当(割増賃金)が発生するためには,労働者が法定労働時間(休憩時間を除いて1日8時間,1週間に40時間以内)を超えて実際に労働することが必要です。しかし,そもそもの大前提とある「労働時間」とは,就業規則に定められている所定労働時間を指すのか,別の概念なのか,法律上明確に規定されていません。

判例による概念確立

 最高裁判例では,労基法32条の労働時間は使用者の指揮命令下に置かれている時間であり,その判断は労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かによって客観的に定まる旨判示し,労働契約・就業規則・労働協約等の定め如何で決定されないとしています。

指揮命令下にあるか否かの判断枠組み

 上記概念をふまえ,現在の裁判実務では,概ね以下の判断枠組みに沿って使用者の指揮命令下にあるか否かを評価しています。

第1段階 拘束時間か否か

 まずは,雇用契約書,就業規則,業務マニュアルといった資料から,労働者が主張する実労働時間において,就労義務の存在する時間帯か否かを検討します。

第2段階 拘束時間外の場合

 拘束時間外である場合,形式的には労働時間に該当しない可能性が高まります。そこで,実質面で該当か否かを更に検討をしていくことが求められます。判例は…
①業務遂行を明示・黙示で義務を命令されたり,余儀なくされているか
②行動に場所的拘束性を持たせているか
③対象行為と本来的業務行為に高い関連性があるか
④社会通念上必要とされている時間の範囲か
という4つの要素を考慮して,指揮命令下の有無を評価しています。

第3段階 拘束時間内の場合

 拘束時間内である場合,形式的には労働時間に該当する可能性が高まります。そこで,実質面で非該当か否かを更に検討していくことが求められます。判例は,休憩と同程度に労働からの解放が保障されているか…
①実質的に役務提供が義務付けていないと認められる例外的事情の存否
②場所的拘束性の有無
③当該行動の頻度
という3要素を考慮して,指揮命令下の有無を評価しています。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2017年07月24日 | Permalink