婚姻費用・養育費の算定方法

 婚姻費用・養育費の具体的な金額は,どのように定められるのでしょうか?
 法律上は,具体的な算定方法について明記されていません。過去には,事例毎に裁判所の裁量で決めていたこともありましたが,現在は一定の算定方式を基礎にして具体的数値を算出することが一般的です。

標準的算定方式

 現在の実務は,標準的算定方式(夫婦双方の基礎収入合計額を,夫及び妻並びに同居する子のそれぞれの最低生活費で按分する方法。基礎収入は,総収入から優先すべき公租公課・職業費・特別経費を控除したもの。)によって算定しています。
 上記方式は,当事者双方の総収入が判明すれば,簡易算定表が存在するため,概算結果を簡易迅速に把握することが可能です。⇒裁判所HPで公開されています。コチラ

標準的算定方式の修正

 標準的算定方式は,平成10年から14年までの統計資料に基づき,平成15年4月に公表されました。あくまでも,標準的な事案を想定した内容であり,簡易算定表も子供が3人までのものしか存在しません。
 したがって,4人以上の場合には個別に計算方式にて算出する必要がありますし,主として子供に関する特別な出費等が想定される場合には,その点を考慮して算出金額を修正する必要があります。
 調停・審判で問題になるのは,こうした簡易算定表では対処しきれない事案が多いというのが実感です。特別事情の考え方については,個別の記事で紹介させていただきます。

日弁連による新算定表

 標準的算定方式は,最高裁で是認されつつも,考慮されている統計資料が古くなってしまった点,総収入から住宅ローンや保険掛金等の有無を考慮することなく特別経費(住居関係費・保健医療及び保険掛金等)を控除している点,15歳を境界として生活費指数を変化させることは乳幼児と小中学生を同一区分にしてしまい生活事態とかい離している点等,批判も多く存在しました。
 これを受けて,平成28年11月15日に,日弁連が新しい算定方式及び算定表の提言をしています。⇒日弁連HPで公開されています。コチラ
 今後は,新算定表も,一つの算出根拠として拡散していくと思われます。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年12月28日 | Permalink

養育費とその支払義務

 離婚後における子の養育費とは,未成熟子の養育に要する費用です(民法766条1項)。すなわち,離婚しても,親の子に対する生活保持義務は影響を受けないため,親と同程度の生活が出来るよう費用を負担する責務として,監護親から非監護親に対して養育費請求が認められています。

養育費の支払始期・終期

 実務では,請求時(大多数は調停申立時)から具体的権利として発生し,子が成人に達した日の属する月に終了すると考えられています。
 子が大学その他の高等教育機関に進学し,卒業時までの間,監護親の要扶養状態(具体的には,アルバイト収入や奨学金を活用しても自立生活における費用が不足するとき。)にある場合には,当該教育機関の卒業時までを終期と定められる事例も少なくありません。逆に,子が成人未満でも,就職して収入がある場合,監護親の要扶養状態にあるとはいえなくなり,終期が早まる可能性も存在しています。

進学・病気等の特別出費にかかる負担

 養育費の具体的金額の設定に際しては,実務上,一般的な生活出費等を考慮した簡易算定表を用いることが圧倒的多数となっています。子に私立学校や大学等への進学や病気による高額治療が生じた場合,考慮外事項となるため,家事調停では別途特別出費については協議する旨の事項を入れることが少なくありません。

支払方法

 養育費は,日々生じる定期金債権であり,当月分を当月払いとするのが通常です。一括払は未発生の将来部分を含むことから本来的には先払いに馴染まない性質を有しています。しかし,実務上は,支払方法について将来分を含めた一括払とする調停条項も有効と考えられています。

保証人設定について

 養育費については,非監護親が支払を途絶することも少なくないため,監護親としては連帯保証人を設定したいと考えるのもやむを得ない部分があります。
 しかし,養育費支払は生活保持義務の一環であり,親以外の第三者が負担すべき性質のものではないため,公正証書作成に際しても,保証意思の確認を厳格にしたり,保証期間を保証人の生存中に限ることで,限定する方向での運用がされています。

養育費を請求しない合意の有効性

 監護親が非監護親との間で,養育費を請求しないとする調停合意をすることも,夫婦間であれば有効とするのが裁判例です。
 もっとも,事情変更が生じれば,上記合意の変更を求める家事調停・家事審判を申し立てることも可能です。また,上記合意は子に対して拘束力が生じないため,子から非監護親に対して直接,扶養料として請求を受けた場合には,養育費相当額の支払に応じざるを得ない状況となります。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年04月20日 | Permalink

婚姻費用とその分担義務

 婚姻費用とは,夫婦及び未成熟子によって構成される婚姻家族が,その資産・収入・社会的地位等に応じた通常の社会生活を維持するために必要な費用を指します。その中核的要素は,夫婦の生活費と未成熟費の養育費ということになります。
 婚姻費用は,生活保持義務として,夫婦で分担するものとされています(民法760条)。これが,いわゆる“婚姻費用分担義務”であり,収入の多い者が義務者,収入が少ない者が権利者として,費用の分担を請求することができるのです。

婚姻関係が破綻している場合

 婚姻費用分担義務は,生活保持義務としての性質上,婚姻関係が破綻していたとしても存続すると解されており,その結果,別居中の義務者から権利者に対して請求されるのが通例です。

有責配偶者からの請求の場合

 婚姻費用分担金を請求する者が,婚姻関係破綻の主たる責任を負っている場合(有責配偶者),裁判例では請求者自身の生活費相当部分は権利濫用(民法1条3項)を理由に制限され,同居する未成熟子の養育費相当部分のみ請求が認められています
 当職が担当した事件でも,同様の審判が下されています。

婚姻費用分担金の支払始期・終期

 実務では,請求時(大多数は調停申立時)から具体的権利として発生し,婚姻の解消又は別居の解消時に終了すると考えられています。
 始期を考慮すれば,別居等を断行して生計を別にした場合には,速やかに調停を申し立てることが肝要です。もっとも,請求時以前の未払部分については,最終的には財産分与による清算の余地があるので,諦める必要は無いでしょう。

家事調停・家事審判による裁定

 婚姻費用分担金については,離婚訴訟において附帯して請求することができないため,当事者間で話し合いが出来ない場合には,必ず家事調停・家事審判を経て裁定していただく必要があります。家事調停・家事審判は,弁護士のみが手続代理人として関与できる分野ですので,1人で悩むことなく是非ご相談下さい。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年04月15日 | Permalink