清算型遺言(不動産売却)

 清算型遺言とは,清算型相続承継(遺産を全部又は一部換価し,相続債務・執行費用・死後事務費用等を控除した上で残額を承継させる相続方式)を内容とする遺言です。この場合,前提として,遺言事項にて遺言執行者の選任をしておく必要があります。

遺言執行者による不動産換価

 遺言執行者が第三者に不動産を売却換価する場合,売主名義は相続人全員となり,登記手続は一旦相続人全員での相続登記を付けた上で,遺言執行者と第三者との共同申請で移転登記を行うことになります。つまり,登録免許税が2回発生しますのでご注意ください。

譲渡所得税に要注意

 上記不動産換価には,譲渡所得税が発生します。相続開始後から10か月以内に実施する準確定申告により,当該譲渡所得税は法定相続人に相続分に応じて課税されてしまうため,遺産の取得部分が少ない相続人からはクレームが生じる可能性があります。
 対策としては,清算対象に譲渡所得税も含むことを遺言上に明記しておき,遺言執行者が管轄税務署と事前対応の上で,相続財産から支払うよう説明しておく必要があるでしょう。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年01月25日 | Permalink

相続財産の帰趨(預貯金債権を除く)

 Aさんが死亡すると,Aさんを被相続人とする相続が開始され(民法882条),遺言による遺産分割方法の指定が無ければ,相続財産ごとに帰属先が変わります。

可分債権・債務

 賃料債権,借入金債務といった財産は,判例上,当然分割対象財産として指定相続分又は法定相続分にしたがって各相続人に帰属します。つまり,相続人間での共有とはならず,遺産分割手続が不要です。
 もっとも,遺産分割手続において,相続人の合意を得られれば,遺産分割対象財産として取り扱うことも可能です。

祭祀財産

 系譜,祭具(仏壇・位牌・遺影),墳墓,遺骨等の祭祀財産は,相続承継の対象とならず,①被相続人の指定,②慣習,③家庭裁判所の指定(審判手続)の順で別途承継先が定められます(民法897条1項・2項)。

その他の財産

 当然分割対象財産・祭祀財産以外の相続財産は,相続人間での共有となります(民法898条)。そして,遺産分割の協議・調停・審判が確定すれば,相続開始時に遡及して遺産分割内容にそった相続人に帰属します。

相続債務の注意点

 相続債務の帰属先について,遺産分割手続で法定相続分以外の割合で相続人に帰属した場合でも,あくまでもその効力は相続人間でしか通用しません。したがって,債権者からは,法定相続分での債務負担を求められても拒否することはできないのです。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年01月08日 | Permalink

「相続させる」旨の遺言

 公証人役場で遺言を作成する場合や,相続業務に携わる専門家に遺言書作成をお願いする場合,『○○(推定相続人)に,□□を相続させる。』という文言で遺言事項を作成することが一般的です。しかし,民法上は「相続させる」という遺言事項に対して,特別の法律効果を発生させる旨の条文がありません。一見すると,遺贈(=遺言で行う特殊な贈与)に似ているのですが,実際には全く異なる結果となります。

民法で説明できる部分

①相続分の指定(902条)
⇒法定相続分とは異なる相続分割合を定めることができる。
②遺産分割方法の指定(908条)
⇒相続人の意向を無視して遺産の分け方を定めることができる(ただし,指定しただけでは遺産分割は確定せず,遺産分割協議は必要となる。)。

判例が特別な効果を与えた部分(特殊性)

上記②に加えて協議・調停・審判を経なくても遺産分割が確定する。
④各種遺言執行が不要となる。
⇒指定された者は,単独で相続を原因とする登記手続が可能。
⇒指定された者は,登記(不動産の場合)・確定日付通知(債権の場合)がなくても第三者に承継取得を対抗可能。
⇒遺産が農地の場合,指定された者は転用許可(農地法3条)が不要。
⇒遺産が賃借権の場合,指定された者は賃貸人又は賃貸目的物所有者の承諾不要。

遺贈よりも手続が簡便にできる「相続させる」旨の遺言

 遺贈と構成する場合,上記④の大半は遺言執行者を選任しておかないと手続が煩雑となります。それを回避できる点でも,「相続させる」遺言は有用です。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年01月05日 | Permalink

モラルハラスメント

モラルハラスメントとは?

 近時,離婚原因としてモラルハラスメント(以下「モラハラ」という。)の主張を希望する依頼者が増加しています。
 私の経験上でも,①夫婦喧嘩の粋を超えた暴言,②無視・放置,③ステレオタイプな意見の押し付け,④過度の経済的制約,⑤夫婦間扶助義務に反する言動,等がモラハラに該当するとして多く展開されている印象があります。
 モラハラ自体,比較的新しい用語であるため,講学上の確定した意味合いを有しておらず,使用する人によって意味の変わる多義的な概念となっているのが現状です。

離婚原因として主張できるのか?

 理論構成としては,「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号:婚姻関係が不治的に破綻している場合 )に該当するとして主張・立証を尽くすことになります。
 モラハラ主張は,虐待概念における経済的暴力・社会的隔離・心理的虐待とも重なる部分があり,前記3点の虐待手法のうち,虐待とまでは評価できない部分であっても,離婚原因としては有用となる場合があるでしょう。
 
 結論としては,離婚原因の一部として利用することが可能ということです。

 単一事象としては婚姻関係不治的破綻への寄与が乏しいため,主張方針としては複数事象を積み重ねていくことが必要になってきます。相手方配偶者の問題言動を具体的に把握し,俯瞰的視点で自身が精神的苦痛を受けるに至ったプロセスを理解し,文章に纏めることが肝要です。立証方針も,陳述書のみでは証拠構造上心許ないため,早期の段階で,弁護士に相談をして,客観証拠の有無を確認することが大切です。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2015年12月24日 | Permalink

不倫再発防止のための違約条項

夫婦間契約の難しさ

 離婚事件数は増加傾向にありますが,配偶者の不倫行動が発覚したものの,擦った揉んだの末に婚姻関係を継続する事を選択する方もまだまだ多いのが実情です。二度と不倫をしないと相手方が誓っても,鵜呑みにすることがでないのも必然の状況で,次に同じことをした場合には離婚・子供の親権・養育費・財産分与・慰謝料について有利な結果が得られるように公正証書で契約書を交わしたいと思われる方が少なくありません。

 しかしながら上記のような夫婦間契約は,法律上の“障害”がいくつか存在します。
 まず,契約で一定の禁止事項を設けたと仮定した場合,その禁止事項に違反した場合には離婚するといった停止条件付離婚合意は,条件に親しまないとして無効になると解釈されています(そのため,公正証書にすることもできません。公証人法26条)。
 次に,夫婦関契約は婚姻関係が破綻する前であれば取消しが可能であり(民法754条本文),安定性を欠く契約であるとして公証人役場では公正証書作成に消極的対応を取っています。
 そのため,婚姻関係継続を選択した上で,将来の離婚条件を公正証書で纏めることは難しいと言わざるを得ません。

宣誓認証私署証書の活用

 とはいっても,しっかりとした契約書を残したいと考えておられる方には,公証人役場での宣誓認証私署証書の認証・保存をご提案しています(公証人法58条ノ2)。
 これは,当事者間で作成した契約書(私署証書)を,作成者が公証人の面前で記載内容が真実であることを宣誓し,公証人が認証を与えることで,証明力の高い契約書にすることができます。契約書は,公証人役場でも保管されるため,証拠保存の面でも安心です。

 具体的な内容は,公正証書での作成が難しいことを受けて,私署証書でも公証人との細かな折衝が求められます。主として,禁止事項に違反した場合の慰謝料に関する損害賠償予約であれば,当事務所に実績がありますので,ご要望がありましたら,是非ご相談下さい。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2015年11月20日 | Permalink