有責配偶者における男女差

 有責配偶者からの離婚請求が,信義則上制限される可能性があることは別記事で取り上げました。では,有責配偶者が男性であるか,女性であるかによって,制限に差異が生じるのでしょうか。

最高裁判例の射程

 有責配偶者からの離婚請求を制限した最高裁判例は,夫側が不貞行為を行った事案でした。そうすると,妻側が不貞行為して未成熟子を連れて別居し,併せて離婚請求した場合は,事案を異にすることから最高裁判例の射程が及ぶか否か,検討の余地があります。
 興味深い裁判例としては,東京高裁判決平成26年6月12日(判例時報2270号63頁)が挙げられます。この事案は,別居期間が僅か2年で,離婚請求が認容されています。別記事で紹介したとおり,男性有責配偶者からの離婚請求は,別居期間の長期化,未成熟子の不存在,他方配偶者に離婚後において苛酷状況が生じないこと等,厳しい要素が求められるのに対して,制限が緩和されているようにも見て取れます。

裁判官の感覚

 判例が統一的な見解を打ち出していない争点については,最終的には個々の裁判官の見識と良心に委ねられています。あるベテラン裁判官の講演においては,有責配偶者からの離婚請求を制限した最高裁判例は,他方配偶者の“踏んだり蹴ったり”状態を回避することを目的としており,その状況は,経済的なものから子供への関与状況も含めて判断した場合,男女間で大差は生じないと語られていました。

実際の状況

 女性側が有責配偶者である場合,経済面で男性側に不利であったとしても,それを承知の上で離婚請求しているのですから,経済的部分での他方配偶者への譲歩は,低廉ないし不必要と思われます。残るは,子の福祉の観点であり,面会交流等で寛容な姿勢を示すことは,少なからず求められるだろうと思料します。
 こうしてみると,結果的には,男性側の有責配偶者に比して女性側の有責配偶者の方が,離婚請求を容認される余地は大きいというのが実情でしょう


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年05月06日 | Permalink

有責配偶者からの離婚請求

信義則による離婚請求の制限

 有責配偶者とは,夫婦関係の破綻に専ら又は主として責任のある配偶者を指します。有責配偶者からの離婚請求は,一定の場合,信義則違反として制限されることがあります。ポイントは,必ず制限される訳では無いところです。
 信義則違反とまでいえるか否かは,離婚原因作出の態様・程度,他方配偶者の被害感情や婚姻継続意思の有無,別居後の生活状況や時間経過,離婚時の他方配偶者及び子供の予測状態等を総合考慮して判断されます。判例では,以下の3点を重視している事例もありますが,必ずしも全て要求していない事例もあり,信義則違反を確実に回避できる例外要件は確立していません。
 ①別居期間が同居期間との対比で長期化している
 ②夫婦間に未成熟の子が存在しない
 ③他方配偶者が離婚後に精神的・経済的に著しい苛酷状況に陥らない

有責配偶者が離婚したい場合には

 結論から言えば,時間・費用をかけて誠実に交渉し,信義則違反を回避していく必要があります。例えば,別居期間をある程度継続し,その間の婚姻費用分担金を支払い,場合によっては慰謝料相当額を支払い,子供が高校生以上になるまで養育監護に協力し,離婚後の生活状況変動を少なくするために財産分与を潤沢にする等の対応をしていくことが考えられます。また,駆け引きにはなりますが,他方配偶者に対し,婚姻継続意思を断念させるよう行動していく手法も考えられます。
 この点は,事案に応じて対応する必要がありますので,是非,弁護士にご相談していただきたいところです。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年02月08日 | Permalink

モラルハラスメント

モラルハラスメントとは?

 近時,離婚原因としてモラルハラスメント(以下「モラハラ」という。)の主張を希望する依頼者が増加しています。
 私の経験上でも,①夫婦喧嘩の粋を超えた暴言,②無視・放置,③ステレオタイプな意見の押し付け,④過度の経済的制約,⑤夫婦間扶助義務に反する言動,等がモラハラに該当するとして多く展開されている印象があります。
 モラハラ自体,比較的新しい用語であるため,講学上の確定した意味合いを有しておらず,使用する人によって意味の変わる多義的な概念となっているのが現状です。

離婚原因として主張できるのか?

 理論構成としては,「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号:婚姻関係が不治的に破綻している場合 )に該当するとして主張・立証を尽くすことになります。
 モラハラ主張は,虐待概念における経済的暴力・社会的隔離・心理的虐待とも重なる部分があり,前記3点の虐待手法のうち,虐待とまでは評価できない部分であっても,離婚原因としては有用となる場合があるでしょう。
 
 結論としては,離婚原因の一部として利用することが可能ということです。

 単一事象としては婚姻関係不治的破綻への寄与が乏しいため,主張方針としては複数事象を積み重ねていくことが必要になってきます。相手方配偶者の問題言動を具体的に把握し,俯瞰的視点で自身が精神的苦痛を受けるに至ったプロセスを理解し,文章に纏めることが肝要です。立証方針も,陳述書のみでは証拠構造上心許ないため,早期の段階で,弁護士に相談をして,客観証拠の有無を確認することが大切です。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2015年12月24日 | Permalink