離婚交渉の過程では,別居の上で交渉することが一般的な流れです。夫婦間に未成年者がいる場合,両親のどちらかが監護親として養育監護を継続し,他方が非監護親として未成年者と接触できない状況が生じます。
 この点の是正を図るのが,「父又は母と子との面会及びその他の交流」,通称“面会交流”です。

面会交流権の性質

 法律上は,離婚時に「父又は母と子との面会及びその他の交流」を定めると規定しており(民法766条1項,同771条),非監護親と未成年者との面会方法を協議・調停・審判で決定します。離婚前の別居状態であっても,同条項の類推適用により,実務では面会交流を実施しています。
 面会交流は,離婚時においても子の適正監護の観点からは,父母双方と接することが健全な発達に資するため,非監護親側が監護親側に対して子の監護のために適正な措置を求める権利として存在しているのです。

面会交流が子供に与える影響と裁判所の姿勢

 発達心理学の分野において,米国では統計上のデータに基づく文献が数多く存在しています。面会交流は,離婚後の未成年者のより良い心理的・社会的な保護要因であるという帰結の研究が進んでいます。日本は,実証的研究がまだ途上の段階です。
 また,未成年者が監護親とのみ結びつき,非監護親を激しく非難・攻撃して拒絶するという片親疎外現象(原因は,監護親の操作,非監護親の行動・性格,子供側の要素と複合的です。)が生じると,感情的になりやすく,対人トラブルを抱えやすいと指摘する文献もあるようです。
 こうした状況を踏まえ,現在の家庭裁判所側は,両親との離別が否定的な感情体験であり,非監護親との交流継続は,子供が精神的な健康を保ち,心理的・社会的な適応改善するために重要視している状況にあります。

子の利益を最も最優先すること

 平成23年の民法改正で,面会交流を判断する際には「子の利益を最も最優先すること」が明記されました。面会交流の主役は未成年者なのであり,非監護親は子の健全な発達成長のために面会交流をし,監護親はこれに協力することが,通常は子の利益の最大化につながるので,実施すべきと言うことになります。
 反対に言えば,面会交流実施が逆に子の利益を害するような場合,制限・禁止すべきとなります。例えば,①父母の対立又は葛藤が激しい場合,②非監護親が暴力をふるったり面会条件を破る等の問題行動がある場合,③子が非監護親と単独で接することが難しい事情がある場合,制限した審判例も存在するところです。


 面会交流の実施条件は,①日時・頻度,②実施時間の長さ,③子の引渡方法等を中心に定めますが,どの程度に定めた方が良いのでしょうか。

実務の現状

 従前の実務では,「月1回程度の面会をすることを許さなければならない。具体的日時・場所・方法等については事前に協議しなければならない。」という抽象的記載に留めることが通常でした。その背景には,面会交流は,監護親と非監護親の協力の下に実施されることが望ましと考えられていたためです。
 しかし,こうした抽象的処分の場合,細かな部分を父母に委ねることになるため,両者の葛藤が強い場合,まともに取り決めができず,実施が困難になるケースが散見されます。また,不当に拒否する監護親に対し,実施を促す方法として間接強制(不履行1回につき数万円の制裁を科す)が予定されていますが,監護親が実施すべき協力義務の内容が特定していないと当該手法は採れず,不当拒否を許してしまう温床となっていました。
 現在の実務では,間接強制を認めた最高裁判例が出たことで,積極的に具体的処分として細かな取り決めを進めていこうとしています。

間接交流が可能な条項

面会交流の日時又は頻度

 「第○日曜日」といった特定が一番望ましいですが,「1か月に2回,土曜日又は日曜日」といった定め方でも特定十分と考えられています。予定日に実施できなかった場合の代替日も特定しておくと良いでしょう。
 頻度の相場としては,月1回程度と判断されることが多いですが,子の成長に応じて段階的に増加させていくような取り決めが理想です。

各回の面会交流の長さ

 開始時刻から終了時刻まで特定することが望ましいですが,「1回につき2時間」といった定め方でも特定十分と考えられています。
 非監護親としては,宿泊を希望する方も多いですが,監護親が同意しないことが多く,審判移行時に認められるケースは少ないでしょう。経験上も,同居期間中に非監護親の実家で定期的に宿泊を実施している等,実施場所での宿泊に耐えうるような実績がある場合を除き,許容されなかったケースが多いです。

子の引渡方法等

 一番細かい特定が必要なのは引渡方法で,引渡しの時間・場所は当然のこと,方法については各当事者の行動内容まで具体的に定めておくべきです。
 この外,立会人を要するのか,父母ではない補助者に引渡手続の代行を認めるのか,も記載しておくべきでしょう。


 試行的面会交流とは、家庭裁判所調査官立会いの下で面会交流をテスト的に行い、面会交流場面における親子の交流状況を観察することをいいます。
 夫婦間のトラブルをきっかけとして親子間も別居状態になってしまい、その結果、離婚の調停手続において相手方から正常な親子関係の交流ができるかが懸念され(例えば、「子どもがお父さんのことを怖がるのではないか」等)、お子さんとの面会交流の話が進まなくなってしまうことがあります。
 この場合に有用な方法が試行的面会交流です。裁判所内の玩具や絵本が置いてある専用の部屋において調査官が立会いの下、お子さんが驚いたり怖がったりしない状況を確保した上で、面会交流が行われ、お子さんと二人だけで親子のコミュニケーションがきちんと図れるのかがテストされます。また、試行的面会交流の様子は、隣接する部屋からマジックミラーとモニターを通して、試行的面会交流の様子を見守ることができます。
 試行的面会交流の結果、きちんと親子間のコミュニケーションが図れることが明らかになれば、調停手続において面会交流を認める方向で話がスムーズに動き出すことがあります。ただ、試行的面会交流は通常、一度しか行われないため、一度の面接で親子間のコミュニケーションが上手に図れなかった場合、かえって面会交流を否定する方向に進んでしまうことも有り得るので注意が必要です。


 別居した子供との面会交流を認めた裁判所の判断に,子供を引き取った親(監護親)が従わない場合,金銭の支払を命じて履行強制を促すこと(間接強制)ができるのか,という問題があります。
 近時,最高裁判所は,この問題について,1 面会交流の日時又は頻度2 各回の面会交流時間の長さ3 子の引渡し方法等,監護親がなすべき給付内容が特定していれば,間接強制ができるとの判断を下しました。
 給付特定の具体例を見てみますと,以下のとおりです。

A事案 給付不特定で間接強制は不可。
1 2か月に1回。
2 半日程度(最初は1時間から初め,徐々に時間を延ばす。)。
3 具体的日時・場所・方法は別途協議。

B事案 給付特定で間接強制は可能。
1 1か月に1回,毎月土曜日。
2 6時間(午前10時?午後4時)。
3 交流場所は相手方自宅以外で協議。
受渡場所も相手方自宅以外で協議(協議不調時は○○駅改札前)。
受渡時間に監護親が引渡し,交流終了時に受渡場所で引取り。
監護親は交流場所に立ち会わない。
子が病気等の場合は,代替日を定める。
子の学校行事への相手方参列を,監護親は妨げない。

C事案 給付不特定で間接強制は不可。
1 1か月に1回(土曜日又は日曜日)。
2 6時間。
3 取り決めなし。


面会交流の方法に決まった形式はありません。そのためそれぞれの家庭によって方法は異なります。
面会交流の方法等詳細はいつ決めても自由ではありますが、離婚後の争いを避けるためにも、話し合って決めた内容は必ず文書に残しておくことをおすすめします。

<決めておく内容>
・回数(月に何回、年に何回会うかなど)
・場所
・時間
・宿泊の有無
・子供の長期休暇の扱い
・誕生日等の特定日の扱い
・監護者の同行の有無
・連絡方法
・子供の学校行事への参加の有無


親は、子と離ればなれになっているとき、子と会う権利があります。(面会交流権)

しかし、権利だからと言っても、現実に子と会うことが難しいことは、よくあります。

相手方が「何が何でも会わせない」と子を抱え込んでしまっている場合、面会交流が権利だと言っても、その権利の実現は困難を伴います。相手方が抱え込んでいる子を、無理やり引き離して連れてくることは現実的ではないからです。

この場合、相手方に対する地道な説得がどうしても必要でしょう。

北風と太陽の話と同じように、権利主張を一方的にするだけ(北風)では、目的は実現しません。何が相手方にとって「太陽」となるかを探さなければなりません。


当事者の合意で、子と面会交流ができるようになっても、別居して、長期間、子と会っていないとき、どうしたら良いかわからないこともあります。
特に子が幼年のときは、なおさらです。

そもそも、子と面会交流をするにあたり、当事者の合意ができたと言っても、いろいろな条件を付けられることはよくあります。相手が渋々応じているような場合は、何か問題が生ずると、ただちに面会交流を拒否することもあるでしょう。

子が、自分のことをお父さん(お母さん)とわかるだろうかという不安があることもあります。

自分のことをどのように呼んで、子と接したら良いかという問題もあります。お父さん(お母さん)という概念がまだ十分わからないうちに離れてしまったときなどに、こうした問題が生じます。

このように面会交流は、いろいろと難しい問題があり、試行的(試験的)に行なわざるをえないことは多いのです。

しかし、子と会い、子が楽しい時間をもてたならば、子は、もう一度、こうした機会をもっても良いと感ずるでしょう。
一足飛びに思いを実現できないからと言って嘆かず、時間をかけて親子の間を調整する気持ちをもつことが大事だと思います。


 離婚にあたり、子の親権者とならないならば、一生、子に会わない(養育費は支払う前提)ことにした方が良いのではないかと考える人がいます。「自分(父)は、この世にいないことにしてほしい。」とするものです。
 私は、物事に対し、絶対的な正解を求めることに疑問をもっていますが、一生、子に会わないとすることについても、いろいろな考え方があるだろうと思います。したがって、現時点で、これが正解と考えるものはありません。
 子が落ち着いて生活できるようにすることを考える必要があるとは思います。この点に関して、父と母が子に別々に会うのは、子にとって悲しいことで、子が落ち着けなくなるのではないかという心配があります。
 しかし、離婚の場合、多くの子供さんは悲しい思いをすると思いますが、それを乗り越えられていると思います。父母(夫婦)がごたごたしている状態よりは、父母が別々でも落ち着いた関係にあれば、この方が良いと思います。
 父として子に会わないとしたとき、子供さんは、将来、「お父さんはどんな人だろう。」「何をしてくれたのだろう。」などなど、いろいろ考え、知りたいと思うのではないかと思います。したがって、いつか、どこかで、子に会うという時がくるのではないかと考えます。そのとき、父としてどうするか、悩ましい問題が出てくるのではないかと思います。
 また、子との関係は一生の期間続くものであり、未成年の期間よりも大人としてつき合う期間の方が長いと思います。子は、相続人でもあります。
 現時点で、「一生、子に会わない。」と考えるにしても、このような点をよく考え、中長期的な視点をもつことも必要です。