被相続人の一身専属的な権利・義務は相続できません。
つまり、「その人本人でないと意味が無い」という権利・義務のことです。

::代表的なもの::
・罰金を払う義務
・離婚による財産請求権
・親権
・扶養料を請求する権利
・恩給を請求する権利
・身元保証債務       など


戸籍上は相続人になっていても、実際には相続人でない者(表見相続人・不真正相続人)が、あたかも相続人であるかのように相続財産を引き継いでしまっているような場合、本当の相続人(真正相続人)は表見相続人に対し、相続財産を返すよう請求することができます。これを相続回復請求権と言います。

表見相続人(例)
・ 相続欠格者にあたる相続人
・ 被相続人により廃除された者
・ 虚偽の出生届による戸籍上の子
・ 無効な養子縁組で戸籍上養子となっている子
・ 虚偽の認知届で子となっている者

相続回復請求権は、相続人またはその法定代理人が相続権を侵害されたことを知ってから5年間で消滅します。また、これを知らなくても、相続開始の時から20年間行使しないと消滅します。(民法884条)


<相続回復請求権行使の可否が問題になる事例>
(1) 表見相続人が相続財産の一部を第三者に売却してしまっている場合
→ 判例上、このような場合には真正相続人は当該第三者に対して相続回復請求することはできず、“所有権に基づく返還請求”をすべきとされています。

(2) 共同相続人の一人が遺産を独り占めにしている場合
→ 共同相続人の一人が他の相続人の持分に相当する遺産を占有・管理している場合には、相続回復請求権は問題とならず、相続権を侵害された相続人は“所有権に基づく返還請求”をすることになります。


 本来ならば相続人となる資格がある者について、民法で定める一定の事由に該当する場合はその相続権が剥奪される制度を「相続欠格」といいます。
 相続欠格事由に該当する場合は、何らの手続きを経ることなく当然に相続人としての資格を失い、同時に受遺能力(遺贈を受ける権利)も失います(民965)。
 なお、相続欠格は、被相続人との関係で個別に判断されるため、例えば父との関係で相続欠格となった者が、母との関係で母の相続人になることは問題がありません。
 また、相続欠格は代襲原因に該当するため、相続欠格となった者に子や孫などの直系卑属がいる場合には、その直系卑属が代襲相続人となり相続します。

<相続欠格事由(民891)>
1 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者。
(※ 過失致死や傷害致死は、殺人の故意がないので除外されます。)
2 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
3 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者。
4 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者。
5 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者。
(※ 遺言書の破棄・隠匿行為があっても、自己の利益のため、あるいは不利益を逃れるために積極的に行われたものでない場合は、欠格事由にあたらないという判断をした最高裁判例があります。)


被相続人の意思に基づき、一定の行為があった推定相続人について、その相続権を剥奪させる制度を「相続廃除」といいます。
 相続廃除は、相続欠格のように一定の事項に該当すれば当然に相続権が剥奪されるというものではなく、被相続人の意思に基づき、家庭裁判所に廃除の申立をする必要があり、被相続人が生前、自ら家庭裁判所に対し推定相続人廃除の申立をする方法と、遺言書に相続廃除を希望する旨記載し、被相続人の死亡後に遺言執行者が家庭裁判所に審判の申立を行う方法があります。そして、家庭裁判所で廃除の審判が確定すると、当該相続人は相続権を失うことになります。
 廃除の請求を出来る相手は、推定相続人のうち「遺留分を有する推定相続人」のみです。遺留分を有しない推定相続人(兄弟姉妹)については、遺言で相続人から除外したい旨を記載すれば、完全に相続させないことが可能であるためです。
 なお、相続廃除は、被相続人との関係で個別に判断されるため、例えば父との関係で相続廃除となった者が、母との関係で母の相続人になることは問題がありません。
 また、相続廃除は代襲原因に該当するため、相続廃除となった者に子や孫などの直系卑属がいる場合には、その直系卑属が代襲相続人となり相続します。

<廃除の請求対象となる事項(民892)>
1 被相続人に対して虐待をしたとき
2 被相続人に対して重大な侮辱を加えたとき
3 その他著しい非行があったとき


 婚姻届を提出していない(法律上の妻でない)内縁の妻には、原則として相続権はありません。
 では、内縁の夫婦が夫名義で賃借した家屋に2人で居住しており、その後、内縁の夫が死亡した場合、内縁の妻はその家屋に居住を継続できるのでしょうか(賃借権の相続)。

(1)内縁の夫に相続人がいない場合
 内縁の妻は、原則として借家の賃借権を承継し、居住を継続できます(借地借家法第36条第1項)。

(2)内縁の夫に相続人がいる場合
 この場合、相続人が借家の賃借権を相続し、内縁の妻は相続できません。
 ただし、判例は次のように内縁の妻の居住を続ける利益を保護する判断をしています。
?賃借権を相続した相続人から明け渡しを求められた場合
 賃借権を相続した相続人は、当該家屋に住んでいる内縁の妻に、家屋の明渡し請求をすることはできません。判例は、相続人の家屋明渡し請求を権利の濫用として拒絶し、内縁の妻を保護しています。
?賃貸人から明け渡しを求められた場合
 内縁の妻は、賃貸人からの家屋明渡し請求も拒否することができます。
 内縁の妻は、相続人の承継した賃借権を援用して、賃貸人の明け渡し請求を拒み、居住を継続できるのです。


E(Aの親)=F(Aの親)
      │
    ▲死亡
      A(被相続人)=B(Aの配偶者)
              │
              C(Aの子)=D(Cの配偶者)
                    │
                   G(Cの子)=H(Cの配偶者)
                        │
                      I(Gの子)


 先にもお話ししたように、被相続人の子または兄弟姉妹に代わって、その者の子(被相続人の孫、被相続人の甥姪)が相続人となる「代襲相続」という制度がありますが、子についてはさらに「再代襲」という制度が認められており、例えば代襲相続するべき被相続人の孫(G)が相続権を失っていた場合でも、その子I(被相続人のひ孫)がいれば、そのIが代わって相続人となることができます。Iが相続権を失っていれば、その子(被相続人の曾孫)が代襲します。以下も同じです。
 一方、被相続人の兄弟姉妹については再代襲が認められていませんので、兄弟姉妹が相続人になる場合は代襲は一代のみ、つまり兄弟姉妹の子(被相続人の甥姪)までとなります。兄弟姉妹の子(被相続人の甥姪)が相続権を失った場合でも、その子(被相続人の甥姪の子)が相続権を承継することはありません。これは、被相続人と血の繋がりの薄い、いわゆる「笑う相続人」を出さないとして、昭和55年に民法が改正されたものです。 
(ただし、昭和55年12月31日以前に開始された相続については、兄弟姉妹についても再代襲が認められます。)


E(Aの親)=F(Aの親)
      │
  ▲死亡
      A(被相続人)=B(Aの配偶者)
              │
              C(Aの子)=D(Cの配偶者)
                    │
                   G(Cの子)
                       
民法上、「代襲相続」といって、被相続人の子または兄弟姉妹が一定の事由により相続権を失ったときに、その者の子が代わって相続人となる制度があります。
上図のケースの場合、Aが死亡した場合の法定相続人は配偶者B、子Cですが、Cが一定の事由(後述)により相続権を失った場合に、その子Gが代わって相続人となる、というものです。


代襲相続が発生する(GがCに代わって相続人となる)原因として、以下の3つが挙げられます。
(1)被相続人の子Cが、Aより前に死亡していたとき
(2)被相続人の子Cが、相続欠格事由に該当するとき
(3)被相続人の子Cが、廃除されたとき


一方、相続人が相続放棄をした場合は、初めから相続人ではなかったものとみなされます(民法939条)ので、代襲原因とはなりません。
つまり、上図のケースでは、Cが相続放棄した場合、GはCに代わって相続人とはならず、相続人はAの配偶者B、両親E、Fとなります。


 養子縁組は、養親又は養子が死亡しても、そのことをもって自然に解消(離縁)とはなりません。養親又は養子が死亡した後で、その者と養子縁組をしている生存当事者が離縁をする場合、家庭裁判所の許可を得る必要があります。これを「死後離縁」といいます。
 そして、死後離縁した場合も、養親子関係に基づき既に生じた相続における相続人の地位は、影響を受けることはありません。つまり、養親死亡後に相続人である養子が養親との養子関係を死後離縁した場合でも、養子は依然として亡養親の相続人のままとなります。
ただ、死後離縁の手続を行うことにより、生存当事者と死亡当事者の親族との間の親族関係を解くことができます。例えば、養親が死亡した後に、養子が死後離縁の手続を行うことにより、養子縁組先の兄弟姉妹との親族関係が無くなることになるので、将来的に養子が志望した際に発生する相続の際には、養子縁組先の兄弟姉妹は相続人の資格が無いことになります。