「持戻し」とは
 相続人のうちの誰かが特別受益を得ていた場合に、相続人間の公平を図るため、その特別受益分を相続分算定の基礎に加算する計算上の扱いを、持戻しといいます。
持戻しの目的が、共同相続人間の公平を担保する点にあることから、持戻しの対象者は相続人(共同相続人)に限られます。


◆ 特別受益の「持戻しの免除」とは
 持戻しは、相続人間の公平を図ると同時に、被相続人の合理的意思を相続手続きに反映させることを目的とするもの(一般的に被相続人の意思としては、特別受益の付与はあくまで相続分の一部を前渡ししたものである、という考えに基づく)であるため、被相続人が持戻しを希望しない意思を表明している場合には、持戻しは行いません。これを特別受益の持戻しの免除といいます。


 遺贈についての持戻し免除の意思表示は遺言によってなされる必要があります(遺贈は要式行為であるため)。
 これに対し、生前贈与についての持戻し免除の意思表示については、特別の方式は必要ありません。贈与と同時でなくてもよく、また明示・黙示を問いません。
 そのため、生前贈与による特別受益者としては、持戻しを認める前に、持戻し免除の意思表示があったと解しうる状況がないかどうかを確認しておくべきであると言えます。
 例えば、共同相続人の1人に贈与をしているにもかかわらず、これに言及することなく遺言で相続分の指定をしている場合などに、被相続人に持戻し免除の意思表示があると認めた判例があります(東京高決昭和57年3月16日、鳥取家審平成5年3月10日、東京高決平成8年8月26日)。


 持戻しを免除された特別受益が他の相続人の遺留分を侵害している場合、遺留分減殺請求の対象となります(民法903条2項・3項)。この場合、「相続開始前1年以内の贈与」「遺留分侵害を知っていてなされた贈与」という制限に関係なく、減殺請求できます。すなわち、持戻しの対象とされる贈与には、持戻し期間の制限がありません。


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