家族信託とは、自分と愛する家族の生活を守るために、信託という制度を利用し、中長期的な視点に立って、組み立てられたスキームである。

 家族信託を考えるにあたっては、個々の家庭の事情・環境により、扶養、後見・管理、遺産分割、事業承継、社会貢献を組み合わせ、財産の承継・移転と財産管理の2つの側面を同時に確実に満たすスキームが求められているとされる(信託229号.386頁.星田寛)。
 そして、具体的なニーズとして、次のような例示がなされている。
1.自らの判断能力低下に備えた生活維持・財産管理のため、また配偶者(病弱・認知症等の場合もある)のために伴侶亡き後の生活が安定できるようにしたい。
2.再婚による配偶者の生涯にわたる生活安定のための居住・生活資金の確保、とともに先の配偶者との間の子への確実な財産承継・帰属ができるようにしたい。
3.自社株・先祖からの不動産を守り、議決権行使・管理を円滑にし、また今後の相続による財産分散を少なくしたい。
4.財産の収益、配当・賃料等の請求権を老妻等特定の家族に与え、その元本は別の者に帰属させるなど、アンバランスな財産構成、複雑な家族構成のため遺産分割の選択肢を広げたい。
5.散財する者・騙されやすい者・障害者等、管理・判断能力が乏しい子孫の親亡き後の生活維持や財産管理に不安があるため、確実な誰かに託したい。
6.同居または近くに住み、身近な存在としての可愛い孫が、(浪費されないよう定期的に支援し)十分な教育を受け、お金に困らない人生を、豊かな生涯を得られるように、または何かと世話になり頼りになる存在としての子孫とその家族に、感謝の気持ちとして残った財産を有意義に使えるようにしたい。
7.自己の存在を忘れられないよう、菩提を弔う寺院を、特定の子孫の活動を、または特定の非営利活動等を、定期的に支援または寄付し続けるようにしたい。
8.全国各地に居住する・多忙な・高齢の相続人にとって、分割協議と手続きは煩わしく十分な話合いができないので、煩雑な検認・相続手続きを回避し、速やかに財産を利用できるようにしたい。また、本人にとって、遺言はその作成のタイミングと記載内容の難しさによるトラブルの可能性があり、また厳格な要式は高齢者にとって面倒であり、いつでも自由に相談しながらコントロールできる方法がよいとの声がある。

 このようなニーズに対しては、個々の家庭の事情・環境を踏まえ、適切な財産観・家族観に基づいた対応がとられなければならないところである。


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