民法は「夫婦は同居し、お互いに協力、扶助し合わなければならない」と定めており、これを「同居義務」「協力義務」「扶助義務」などといいます。5つの法定離婚原因のうちの1つ「悪意の遺棄」とは、この夫婦の同居義務、扶助義務等を不当な理由により果たさない場合のことです。

■同居義務違反
 同居義務違反による「悪意の遺棄」については、別居の期間について決まった基準がなく、過去の判例ではたった2か月間で「悪意の遺棄」にあたるとしたものがあります。つまり、期間の長短より遺棄の意思の明確さに重きが置かれていると言えます。
 黙って一方的に別居を始めることは、後に離婚の話し合いになった際に「悪意の遺棄」であるという非難を受けかねません。「うまくいかなくなった夫婦関係を調整するための冷却期間を置く別居」であれば同居義務違反による「悪意の遺棄」には当たりませんので、夫婦関係がこじれてお互いの意思で別居を開始する場合には別居前によく話し合い合意しておくことが必要です。
 上記の他に「悪意の遺棄」に当たらない別居事由として、「配偶者の暴力や酒乱による被害を避けるために一方が家を出たことによる別居」「子どもの教育上必要な別居」「病気治療のための別居」などが挙げられます。また、「夫婦関係が破綻した後の別居」は破綻の結果であって破綻の原因ではありませんので「悪意の遺棄」に当たりません。

■ 協力義務・扶助義務違反
 協力とは「婚姻状態における、あらゆるできる限りのお互いの手助け」です。例えば、夫が会社勤めで妻が専業主婦であれば、妻が家事を放棄した場合は  
「扶助義務」違反と言えます。一方、夫婦がそれぞれ仕事を持っている場合は妻だけが家事をすべきとは言えませんので、夫が家事に協力しないことが「扶助義務」違反になります。特に子供が小さければ、夫も少しでもその面倒を見るのは当然と判断されます。しかし、どの程度が協力をしたことになるのかはケースバイケースであり、簡単には線引きできません。
 具体的には「生活費を渡さない」「理由なく同居を拒否する」「家出を繰り返す」「夫婦の一方が相手を虐待して追い出したり、家を出ざるを得ないようにしむける」「健康な夫が働こうとしない」「生活費を送る約束で別居したが生活費を送らない」「妻と姑との折り合いが悪く、妻が実家に帰ったまま」などがこれにあたります。


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