本人の判断能力低下前に、本人と任意後見人の予定者とが任意後見契約を締結します。この契約締結の時に、本人が委任事項を含む任意後見契約の内容を理解していることが必要です。
 この契約には、任意後見監督人が家庭裁判所により選任されたときから契約の効力が生ずる旨の特約が付けられます。
 任意後見契約は、公正証書により締結される必要があります。また、公正証書が作成されると公証人は法務局へ登記を嘱託し、任意後見契約の登記がなされます。この登記は、プライバシーに関わる事項であり、登記事項証明書の交付を請求できる者は限定されています。
 本人の判断能力が不十分になった場合、本人、配偶者、四親等内の親族または任意後見受任者は、家庭裁判所に対し、任意後見監督人の選任の申立をします。
 家庭裁判所は、本人の判断能力が不十分と認めるとき、任意後見監督人を選任し、任意後見契約の効力を発生させることになります。


 任意後見契約は、本人が自分で後見人を選ぶことができる点が一番のメリットです。この点をうまく使うことが求められます。
 任意後見と法定後見の関係については、本人の自己決定権を尊重し、任意後見を優先することになっています。
 任意後見契約が登記されている場合、原則として、法定後見の開始の審判をすることはできません。また、法定後見開始の審判がなされていても、任意後見監督人の選任がなされ、任意後見人が事務を開始すれば、法定後見は取り消されます。
 ただし、本人の利益のため特に必要があると認められるときは、法定後見の審判ができ、任意後見契約は当然に終了することになります。


 任意後見契約を結ぶとき、本人に意思能力があることが必要です。一般的には、幼児、重度知的障害者、泥酔者などは意思能力がないとされています。
 本人の判断能力が衰えはじめていても、契約の際に意思能力があり、契約内容を理解できれば、任意後見契約は可能です。
 しかし、現実には、意思能力の有無の判断は難しいこともあります。また、意思能力がなかったことが、後日、訴訟などで明らかになると、任意後見契約は無効となり、任意後見人の行為は無権代理行為となってしまい、影響は大きなものがあります。
 公正証書を作成する公証人からは、医師の診断書を求められたりしますし、何らかの客観的な担保となるものが必要となります。場合によっては、公正証書の作成が拒否されることもあります。この場合には、法定後見の申立をすることになります。


 任意後見人の行う事務は、法律行為に限られ、身の回りの世話などの事実行為は含まれません。したがって、後見人に介護活動をすることの委任はできません。
 任意後見人の法律行為としては、次のものがあります。
1 財産管理に関する法律行為
 預貯金の管理・払戻し
 不動産その他重要な財産の管理・処分
 遺産分割
2 日常生活・療養看護などの身上監護に関する法律行為
 介護契約、施設入所契約、医療契約の締結
3 要介護認定の申請などの公法上の行為