公益通報者保護法の趣旨

 法人の活動は,自然人の活動の積み重ねである以上,ミス・不正とは切り離せない関係にあります。企業の法令遵守・社会的責任が叫ばれる中,リスク情報の早期把握は,企業自体の自浄作用を促すだけでなく,広く利害関係を有する国民の安全にも繋がる公益性を帯びています。しかしながら,日本の風土上,「通報」⇒「密告」と捉えられがちであり,通報者に対する事実上の仕返しが後を絶ちません。
 そこで平成18年4月に施工されたのが,公益通報者保護法であり,公益通報をした者に対する不利益な取扱いを禁止することを目的にしています。

通報対象の事実

 基本的には,指定された法令の刑罰規定違反行為になります。
 対処法令は,消費者庁のHPをご確認ください。⇒コチラ

公益通報性の要件

1 労働者が
2 不正の目的なく
3 労務提供先又は事業従事する場合の役員等につき
4 通報対象事実が現に生じ又はまさに生じようとしている旨を
5 労務提供先又はその事前指定者に対して(内部通報)
  所管行政庁に対して(行政機関通報)
  発生・拡大の防止に必要な者に対して(外部通報)
6 通報すること

保護要件

①内部通報の場合…通報対象事実があると通報者が思って通報すれば,保護されます。
②行政機関通報の場合…上記のように単に思うだけでは足らず,信じるに足りる相当の理由が必要になります。
③外部通報…①②では,不利益を被る可能性があったり,企業側に反応が乏しい場合にのみ,認められることになります。


 内部通報制度を巡る状況としては,平成27年3月24日閣議決定「消費者基本計画」にて,公益通報者保護制度について有用性を認め,周知・啓発の促進と制度の見直しを実施すると明記され,制度自体が一歩先に進もうとしています。

会社法に基づく内部統制システム

 会社法では,役員の善管注意義務の一環として,会社の内部統制システム構築・運用の義務(「企業集団の業務の適性を確保するために必要な体制」)が,特に取締役会設置会社では必要となります(会社法362条4項)。
 また,監査役設置会社であれば,監査体制の適性確保システム構築・運用の義務(「報告したことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制」)が必要になりました(会社法施行規則100条3項5号)。

コーポレートガバナンス・コード

 上場企業に証券取引所が課したルールであるコーポレートガバナンス・コードでは,『原則2-5.内部通報』にて,取締役会に体制整備及び運用状況の監督を責務として求めています。また,『補充原則2-5①』では,内部通報制度として,経営陣から独立した窓口の設置,情報提供者の秘匿と不利益的取扱いの禁止を要請しています。

内部通報制度の需要増加

 こうしてみると,内部通報制度は,取締役に求められる内部通報システムと親和性が高く,上場企業でなくとも取り入れていくべき制度であると言えるでしょう。