不治の精神病

 日本における離婚制度は,協議上(示談・調停)で離婚できない場合,離婚訴訟を提起の上で判決による離婚形成が必要になります。裁判上の離婚については,離婚原因が法定されており,4番目に登場するのが「配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき。」(民法770条1項4号)です。
 不治の精神病とは一体どんな内容なのか,説明していきたいと思います。

 医学的要素を含む法的概念

 当該要件は,①強度の,②精神病で,③回復の見込みがない,という3要素が必要になります。いずれも医学的要素を含む法律概念であるため,正常な婚姻共同生活の継続ができるか否かとう観点から判断されることになります。医学的な精神病症例への該当性や回復不能との医学的判断は,必須ではありません。
 事理弁識能力を欠く常況であることは必要なく,成年後見人が選任されていることをもって当該要件をすべて満たしていることにはならない点も要注意です。

裁量棄却の可能性

 実は,離婚原因に該当していても,裁判所は諸事情を考慮の上で,離婚を認めない判断をすることができます(民法770条2項)。
 配偶者(=病者)の今後の療養・生活等について具体的方途(例えば,実家が資産家であったり,扶養的財産分与による生活費支援等。)の見込みがない場合,同条項が適用されるというのが判例の見解です。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年12月23日 | Permalink

3年以上の生死不明

 日本における離婚制度は,協議上(示談・調停)で離婚できない場合,離婚訴訟を提起の上で判決による離婚形成が必要になります。裁判上の離婚については,離婚原因が法定されており,3番目に登場するのが「配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。」(民法770条1項3号)です。
 生死不明とは一体どんな状況なのか,説明していきたいと思います。

生死不明の意義

 「生死不明」とは,生存も死亡も確認できない状態を指します。そのため,単なる別居や行方不明・住所不定は,これに含まれません。
 生死不明の期間は,起算点(=生存確認の最終時点)から3年以上が経過し,離婚訴訟の口頭弁論終結時まで継続していることが求められます。

失踪宣告制度との関係

 生死不明者については,失踪宣告制度(=一定要件を満たすことで法律上死亡擬制をするもの。)を利用することでも,実質的な婚姻関係の解消が可能です。もっとも,失踪宣告の後に,当人が生存していた場合には失踪宣告の取消しの可能性があり,必ずしも安定した結果が得られる訳ではありません。
 他方,当該離婚原因にて離婚訴訟が確定した場合において,事実審の口頭弁論終結時前に死亡していたと失踪宣告で認められると,離婚判決自体が事後的に無効となる可能性もあります。生死不明の配偶者と離婚する場合には,そのリスクを考慮しなければなりません。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年12月23日 | Permalink

悪意の遺棄

 日本における離婚制度は,協議上(示談・調停)で離婚できない場合,離婚訴訟を提起の上で判決による離婚形成が必要になります。裁判上の離婚については,離婚原因が法定されており,2番目に登場するのが「配偶者から悪意で遺棄されたとき。」(民法770条1項2号)です。
 悪意の遺棄とは一体どんな行為なのか,説明していきたいと思います。

悪意・遺棄の意義

 「遺棄」とは,単に置去りだけでなく,正当な理由のない夫婦の同居・協力・扶助義務の不履行一般を意味します。そして,「悪意」とは,社会的倫理的非難に値する心理状態,すなわち,遺棄の結果としれ婚姻共同生活の廃絶を企図又は認容する意思を指します。
 典型的な行動は,夫が不貞相手と生活し,婚姻費用分担金を渡さないことです。

別居は悪意の遺棄となるか?

 別居は,それ自体が婚姻関係破綻の象徴的な行動ですが,直ちに悪意の遺棄に該当する訳ではありません。裁判例を見ても,合意で別居した場合は当然,DV被害回避のためや病気療養を目的とする別居には正当な理由があると考えられています。
 今日では,別の離婚原因「その他婚姻関係を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)の要素として扱われることが一般的です。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年12月23日 | Permalink

預貯金債権の帰趨

 相続財産の中に預貯金債権が含まれる場合,従来の判例では,これを可分債権と判断して遺産分割手続によらず,法定相続分又は指定相続分に従って相続人に当然分割されていました。しかし,最大決平成28年12月19日にて,判例変更がされました。

預貯金債権は遺産分割対象財産

 上記大法廷決定は,「共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象になるもの解するのが相当である。」と判示しています。

預貯金債権を遺産分割前に使用したい場合(補足意見)

 遺産分割対象財産となってしまった預貯金債権は,遺産分割前には単独で当該財産を利用することができなくなります。その結果,相続債務の弁済資金としての利用や,被相続人から扶養を受けていた共同相続人の当面の生活費捻出にも,共同相続人全員の同意が必要となってしまい,不都合が生じる懸念があります。
 上記大法廷決定の補足意見では,保全処分(仮分割の仮処分:家事事件手続法200条2項)による対応が提起されています。

相続開始後の増加残高分の帰属先(補足意見)

 相続発生時の残高が相続財産として共同相続人が準共有することには争いがありませんが,相続開始後に入金等で増額した部分の帰属については,可分債権とすると別異に考える必要がありました。
 上記大法廷決定では,「共同相続人全員で預貯金契約を解除しない限り,同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在する」と判示されています。これを受けて補足意見では,全体が遺産分割の対象になると指摘しています。
 また,①相続開始後に相続財産から生じた果実,②相続財産を相続開始後に処分して得た代償財産,③可分債権の弁済金等が入金された場合,いずれも入金後の合算額が遺産分割の対象となる旨指摘しています。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年12月21日 | Permalink

不貞行為

 日本における離婚制度は,協議上(示談・調停)で離婚できない場合,離婚訴訟を提起の上で判決による離婚形成が必要になります。裁判上の離婚については,離婚原因が法定されており,1番目に登場するのが「配偶者に不貞な行為があったとき。」(民法770条1項1号)です。
 不貞行為とは一体どんな行為なのか,説明していきたいと思います。

不貞行為の意義

 判例では,不貞行為とは「配偶者ある者が配偶者以外の者と相互に自由意思に基づいて性的関係を結ぶこと」と定義されています。〔最一小判昭和48年11月15日民集27巻10号1323頁〕

外形的要件:性交渉(男性器の女性器への挿入)の存在
 性的関係をどこまで拡張解釈するかによりますが,性交渉が含まれることには争いがありません。裁判例を見る限り,性交渉以外の肉体的接触行動は,別の離婚原因「その他婚姻関係を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)の要素として扱われることになります。

内心的要件:自由意思の存在
 心神喪失状態にある場合や強姦された場合には,当該要件を欠き,不貞行為とはなりません。もっとも,泥酔状態のような自らの過失で招いた無意識状態中については,自由意思がなかったとは判断されないでしょう。

不倫という言葉

 不倫とは人倫に外れることであり,不貞行為も含む多義的な概念です。日本で使用される場合は,①配偶者ある者が,②配偶者以外の異性と,③親密な交友を持つという意味で使用されることが多いでしょう。
 そして,③がどこまで許容内か否かは,社会道徳や配偶者の倫理観によっても変化します。ハラスメント問題と等しく,被害者側(不倫された他方配偶者)がどのように思うかで,重さが異なってきます。
 例えば,配偶者ある者が,配偶者以外の者とキスをすることは,不貞行為ではないものの,不倫行為と評価されることはあり,程度によっては夫婦の信頼関係を著しく傷つけることになり,別の離婚原因「その他婚姻関係を継続し難い重大な事由」の要素になる可能性もあります。

不貞行為に対する社会の変化

 女性が配偶者以外の男性と性交渉をした場合,戦前は『姦通罪』(刑法183条)で2年以下の懲役刑が予定されていました。女性のみ成立しうる身分犯であり,古くは江戸時代の刑法である公事御定書にも処罰しています(刑罰は重く,妻と不倫相手は死刑でした。)。
 戦後,憲法14条に所定する法の下の平等に反するとして,削除されました。
 現在では,裁判上の離婚原因に直接(不貞行為の場合)又はその要素(不貞行為以外の性的関係の場合)となる点,不貞配偶者の他方配偶者に対する貞操義務違反及び不貞第三者の他方配偶者に対する「夫婦としての実体を有する婚姻共同生活の平和の維持」を侵害する不法行為になる点,つまり民事上の意義を有するに止まります。

一時的な関係の場合は?

 不貞行為の外形的要件は,性的関係が一時的な関係であるか継続的関係であるか,同棲を伴うか否か,売春的行為であるか否か,又は売春婦を相手方とした行動であるか否かは問わないと考えられています。
 そのため,一度だけの性交渉でも不貞行為に該当し,風俗店で性交渉をすることも不貞行為に該当します。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年12月19日 | Permalink