死後に希望事項の実現を求める遺言

 「終活」という言葉も生まれているように,生前に死後の対応(葬儀方法,配偶者・子供の扶養,ペットの世話等。)をしておく方が増えています。遺言書の作成は,その最たる例ですが,死後に希望事項の実現を求める場合,どのような対策が必要でしょうか?

負担付遺贈

 負担付遺贈とは,遺贈(=遺言で行う特殊な贈与)のうち,貰う側(=受遺者)に一定の義務を負担させるものです(民法1002条・1003条)。
 受遺者は,受ける利益の限度内で負担義務を履行する責任を負います。義務履行は,遺贈者の死後に行われる必要はなく,生前であっても可能です。そのため,晩年の療養介護に対して金銭を与える旨の遺贈も,負担付遺贈の一種となります。
 形式的には,この方式が適切なのですが,受遺者が義務を履行しない場合でも,遺贈自体は有効のままです。この場合,相続人が受遺者に義務履行を催告し,それにも応じない場合には当該遺贈の取消しを家庭裁判所に請求することになります(民法1027条)

遺言による信託

 信託とは,AがBに財産を譲渡し,Bが当該財産を管理・処分することで利益をCに与える法的枠組みです(信託法3条2項)。
 遺言によって信託設定が可能となるため,例えば預金債権が相続財産になりうる場合,信託銀行を受託者として,生活資金給付信託・永代供養信託・公益信託といった管理・処分が可能です。
 もっとも,対象財産ごとに受託者を変える必要があり(預金なら信託銀行,有価証券なら信託証券会社,不動産なら信託不動産会社),受託者が適切に管理していることをどうやって確認するのか,受益者による監督が難しいことが問題です。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年04月19日 | Permalink

遺言執行者を付けるべきか

 遺言書を作成する場合に,遺言執行者を選任するよう勧められることがあります。しかし,遺言事項で遺言執行者を選任してしまうと,相続財産から報酬を支払うことになり,報酬額も計算方式で記載することが多いため,本当に必要なのか否か不安に思う方も多いと思われます。

 弁護士の視点から見た場合,清算型相続承継(遺産を全部又は一部換価し,相続債務・執行費用・死後事務費用等を控除した上で残額を承継させる相続方式)を希望する場合には,遺言執行者を付けるべきとアドバイスすることになります。

遺言執行に関連する遺言事項としては,以下の4点が重要になります。

①遺言執行者の選任(民法1010条)
⇒未成年者・破産者は遺言執行者になれません(民法1009条)

②共同遺言執行者の定め(民法1017条但書)
⇒遺言者死亡前に執行者が死亡してしまった時の備えとして必要

③遺言執行者の報酬指定(民法1018条1項但書)
⇒決めていないと家庭裁判所で決定することになる(同条項本文)

④遺言執行者の権限具体化(民法1012条1項)
⇒相続財産の清算に必要な権限を具体的に記載しておかないと,当該財産に係わる第三者(法務局・銀行等)の協力を得られない可能性あり。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年01月25日 | Permalink

清算型遺言(不動産売却)

 清算型遺言とは,清算型相続承継(遺産を全部又は一部換価し,相続債務・執行費用・死後事務費用等を控除した上で残額を承継させる相続方式)を内容とする遺言です。この場合,前提として,遺言事項にて遺言執行者の選任をしておく必要があります。

遺言執行者による不動産換価

 遺言執行者が第三者に不動産を売却換価する場合,売主名義は相続人全員となり,登記手続は一旦相続人全員での相続登記を付けた上で,遺言執行者と第三者との共同申請で移転登記を行うことになります。つまり,登録免許税が2回発生しますのでご注意ください。

譲渡所得税に要注意

 上記不動産換価には,譲渡所得税が発生します。相続開始後から10か月以内に実施する準確定申告により,当該譲渡所得税は法定相続人に相続分に応じて課税されてしまうため,遺産の取得部分が少ない相続人からはクレームが生じる可能性があります。
 対策としては,清算対象に譲渡所得税も含むことを遺言上に明記しておき,遺言執行者が管轄税務署と事前対応の上で,相続財産から支払うよう説明しておく必要があるでしょう。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年01月25日 | Permalink

相続財産の帰趨(預貯金債権を除く)

 Aさんが死亡すると,Aさんを被相続人とする相続が開始され(民法882条),遺言による遺産分割方法の指定が無ければ,相続財産ごとに帰属先が変わります。

可分債権・債務

 賃料債権,借入金債務といった財産は,判例上,当然分割対象財産として指定相続分又は法定相続分にしたがって各相続人に帰属します。つまり,相続人間での共有とはならず,遺産分割手続が不要です。
 もっとも,遺産分割手続において,相続人の合意を得られれば,遺産分割対象財産として取り扱うことも可能です。

祭祀財産

 系譜,祭具(仏壇・位牌・遺影),墳墓,遺骨等の祭祀財産は,相続承継の対象とならず,①被相続人の指定,②慣習,③家庭裁判所の指定(審判手続)の順で別途承継先が定められます(民法897条1項・2項)。

その他の財産

 当然分割対象財産・祭祀財産以外の相続財産は,相続人間での共有となります(民法898条)。そして,遺産分割の協議・調停・審判が確定すれば,相続開始時に遡及して遺産分割内容にそった相続人に帰属します。

相続債務の注意点

 相続債務の帰属先について,遺産分割手続で法定相続分以外の割合で相続人に帰属した場合でも,あくまでもその効力は相続人間でしか通用しません。したがって,債権者からは,法定相続分での債務負担を求められても拒否することはできないのです。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年01月08日 | Permalink

「相続させる」旨の遺言

 公証人役場で遺言を作成する場合や,相続業務に携わる専門家に遺言書作成をお願いする場合,『○○(推定相続人)に,□□を相続させる。』という文言で遺言事項を作成することが一般的です。しかし,民法上は「相続させる」という遺言事項に対して,特別の法律効果を発生させる旨の条文がありません。一見すると,遺贈(=遺言で行う特殊な贈与)に似ているのですが,実際には全く異なる結果となります。

民法で説明できる部分

①相続分の指定(902条)
⇒法定相続分とは異なる相続分割合を定めることができる。
②遺産分割方法の指定(908条)
⇒相続人の意向を無視して遺産の分け方を定めることができる(ただし,指定しただけでは遺産分割は確定せず,遺産分割協議は必要となる。)。

判例が特別な効果を与えた部分(特殊性)

上記②に加えて協議・調停・審判を経なくても遺産分割が確定する。
④各種遺言執行が不要となる。
⇒指定された者は,単独で相続を原因とする登記手続が可能。
⇒指定された者は,登記(不動産の場合)・確定日付通知(債権の場合)がなくても第三者に承継取得を対抗可能。
⇒遺産が農地の場合,指定された者は転用許可(農地法3条)が不要。
⇒遺産が賃借権の場合,指定された者は賃貸人又は賃貸目的物所有者の承諾不要。

遺贈よりも手続が簡便にできる「相続させる」旨の遺言

 遺贈と構成する場合,上記④の大半は遺言執行者を選任しておかないと手続が煩雑となります。それを回避できる点でも,「相続させる」遺言は有用です。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年01月05日 | Permalink