調停や、審判、人事訴訟(離婚裁判のこと)の判決や調書、または訴訟上の和解で、相手に養育費の支払義務が発生しているのに、相手(支払義務者)が養育費を支払わない場合、相手の財産(不動産、預金や給与などの金銭債権、動産(家財道具、骨董品、貴金属、あるいは商品など)を差し押さえて、その財産から、養育費を徴収する方法があります。
 差し押さえる財産として、不動産や動産の強制執行は時間がかかり、手続も複雑で、養育費などの請求には適切ではありませんので、差押には、比較的手続の簡単な相手の給与が対象となることが多いです。

1 差押の内容
  通常の場合、差押は、支払期限が過ぎても支払われていない分(現時点で、未払いになっている分)までしかできませんが、養育費の場合は、未払い分だけに限らず、将来、支払ってもらえる予定の養育費についても差押ができます。
 <例>
 「(相手は、子供が)20歳に至るまで毎月末日限り金3万円を支払え。」
という定めになっている時で、相手から3か月分の養育費の支払いがない場合には、現段階で未払いになっている3万×3か月の9万円だけでなく、今後、支払われる予定の20歳までの養育費についても差し押さえることができます。

2 将来の分の差押ができる債権の種類
  定期的に支払期限が来る養育費について差押ができます。
  ※養育費だけでなく、扶養義務等にかかる金銭債権(婚姻費用の分担金、扶養料など、夫婦、親子その他の親族関係から生ずる扶養に関する債権)であれば差押ができます。
  ※財産分与、慰謝料など、親族関係にないものの扶養契約に基づく債権については、将来の分を差押することができません(通常の強制執行手続は可能です)。

3 将来分について、差し押さえることができる財産とは?
  養育費の強制執行で、差押える財産に、相手の給与が対象となる理由とも共通しますが、養育費は、子供が成人する月まで支払う義務が発生しているものなので、当然ながら、差押えには、相手(支払義務者)の給料や家賃収入など、支払義務者が継続して、支払いを受ける金銭を対象となります。
  ※預貯金の払い戻し、保険の解約返戻金など、1回で支払いが終わってしまうものは、将来分の差押の対象になりません。

4 差押の範囲
  差押えできる金額は、養育費や婚姻費用等の場合には、給与額から税金と社会保険料を引いた残額の2分の1までです。あるいは「残額の2分の1」が33万円を超えるときは33万円が差押え禁止部分ですので、その余の部分が差押え可能です。賞与も同様です。退職金も税金と社会保険料を引いた残額の2分の1まで差押え可能です。
また、養育費の未払分については、上記の差押えられる範囲内で、まとめて受け取ることができます。将来、受け取る分については、各支払期限が到来した後に受け取ることになります。
  慰謝料や財産分与については、4分の1までです。裁判所による差押えの決定が出ると、決定を受け取った会社は、相手に支払う給料の中からあなたに支払うべき分を残しておかなくてはなりません。その後、あなたが会社と連絡して受領します。 
  
5 最後に
  離婚が成立しても、このようなトラブルが起こったときに備え、判決や調書などは、取っておくことをお勧めします。仮に、裁判所を通さずに離婚をしても、養育費などの取り決めを記した公正証書を作っておくのもよいと思います。
  また、差押期間満了にならないまま、相手が退職してしまい、給与の差押ができなくなってしまった場合、相手の新しい職場がわかれば、再度、債権差押の申立をすることも可能です。


シェアする