離婚の際、「婚姻中の氏」を継続して使用するのか、それとも「婚姻前の氏」に戻すのか選択することになりますが、その後になって、更に氏の変更をしたいと考えた場合、戸籍法107条1項によって「やむを得ない事由」がある場合に限って氏の変更することができます(詳しくは、「1 離婚後の戸籍と氏」のコラムをご参照ください)。
ここでは、この「やむを得ない事由」がどのような場合に認められるかを検討してみたいと思います。
 この「やむを得ない事由」が認められるか否かは、家庭裁判所が判断することになるのですが、実際上「やむを得ない事由」が認められている事案のほとんどは、『離婚の際に「婚姻中の氏」の使用を選択したが、やっぱり「婚姻前の氏」に戻したい』という場合です。
 このほかに、「婚姻中の氏」でも「婚姻前の氏」でも無い「第三の氏」へ変更したいという場合にも、家庭裁判所が「やむを得ない事由」が認められるか判断することになりますが、このような「第三の氏」への変更で「やむを得ない事由」が認められるためのハードルは相当に高いものです。例えば、30年程度の相当期間長期にわたって「第三の氏」を実際上使用しつづけていてその氏が自らを表すものとして社会的に定着している場合や、これまでの氏の使用を続けると社会的差別や精神的苦痛を受ける等の甚だしい支障がある場合に、「やむを得ない事由」が認められることがあります。単純に、現在の氏が気に入らないような場合には、「やむを得ない事由」は認められません。
 氏の変更は、人生の再出発をきるきっかけにもなりますが、先祖から伝えられてきた氏の大切さも心に留め置いて、慎重に判断されるとよいと思います。


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