A13 ゲルハルト・リヒター(1932ー )

1 リヒターは、1962年から1992年までのノートを開示している。また、インタビューと対談もある(「写真論/絵画論」)。
これにより、リヒターの考え方をある程度体系化することは可能である。
リヒターの絵画は、それを見ているだけでは、全てを理解することはできない。リヒターは、「仕事の本質的な部分は、本来の制作以前の調査とプランニング」にあることを当然のこととしている(同書55頁)。作家が調査とプランニングをするように、見る側もその作品から調査と展開をする必要がある。そのためには、作家は、何らかのきっかけを提供をする必要があると思われる。リヒターが評価されるのは、それがあったからだと思われる。

2 リヒターの体系「写真/絵画論」に基づく
(1) 絵画とは
「絵画とは、目にみえず理解できないようなものをつくりだすことである。」(99頁)
(2) 描くべきもの
  「ほんとうに描くべきものの範囲がどんどん狭まり、明確になっていったのです。」(55頁)この意味は、描くべきものをまず明確にするべきということである。
「人は本来、私が描いているようには描けないものだ。というのも、そこには本質的な前提、つまり、なにを描くべきかという確信、『テーマ』がないのだから。」(108頁)も同様の趣旨である。
(3) 動機
  「私にはモティーフはなく、動機(モティヴェーション)だけがある。」(106頁)
  ただし、「連作にとって私の動機は重要ではありません。」(120頁)の記述もある。
(4) 伝達
  「『伝達』つまり内容。画家がなにかを『伝達』したり、イラストにしたりするときは(ほとんど)いつも、自分の愚鈍をさらし、彼らの伝達はつねに情けないほど退屈で、虚偽に満ちていいかげんで、惨めったらしく攻撃的である」(112頁)
  「そもそも絵を描くという行為、芸術一般へと人をかりたてるものは、まず伝達したいという欲求であり、ものの見方を確定しようという努力であり、名称をあたえ意味づける必要のある、みなれぬ現象の克服である。」(134頁)
(5) なにを、いかに
  「なにを描くべきか、いかに描くべきか?この『なに』がもっとも難しい。それが本来のことだからだ。『いかに』は比較的やさしい。」(113頁)
(6) 仕事の本質的部分
  Q「あなたの仕事の本質的な部分は、本来の制作以前の調査とプランニングにあったのですね。」A「その部分は大変重要ですが、べつに目新しいことではありません。昔の画家もそういうことをしていました。何度も風景をみにでかけていっては、何千という印象のなかから、ゆるぎのない決定的印象を選びだしたわけです。」(55頁)
  「(事件の経過に関し)知識を得て、人物を知ることが、いわば作品の基盤だったのです。」(61頁)
 cf.杉本博司
(7) 方法としての偶然
  「今ではたえず偶然をとりいれている(だがオートマティスムではない)。偶然は私の構想や思いつきを破壊し、新しい状況を生んでくれる(いつもながら、ポルケも嬉しいことに似たようなことをしている)。・・・・・偶然を利用すること、それは自然を描きうつすようなものだ・・・・・しかし無数の可能性のうちのどの偶然を?」(107頁) ←cf.陶芸
  「方法としての偶然」(122頁)
(8) 写真を描きうつすことの意味
  「写真を描きうつすことによって、主題選びや主題の構成から解放された。」(114頁)
  「なにがすばらしかったかわかるだろうか?絵はがきをたんに描きうつすというような、ばからしくくだらないことによって、一枚の絵画を生みだせるとわかったこと。そして自分でおもしろいと思うものが描ける自由さ。鹿、飛行機、王様、女性秘書。なにもつくりださなくていいこと、絵画という名で人が理解するすべてを忘れること。つまり、色、コンポジション、空間性など、とっくに考えられ知られていたことのすべてを忘れる。突如、それらが芸術にとってもはや前提とはならなくなった。」(94頁)
(9) 自然との関係
 「芸術が自然を模倣するというのは救いようのない誤解である。なぜなら、いつでも芸術は自然に逆らい、理性のために創造してきたのだから。」(134頁)
 「ほんとうは、自然はどのような姿であろうとつねに我々と対立している。自然には意味も恩寵も同情もないから、自然はなにも知らず、我々とは反対に精神性や人間性をまったくもたないからである。」(110頁)
 「殺しを我々の自然(本性)の一部とみなすことが重要かもしれない。非人間的で、自然災害や肉食獣や爆発する恒星のように、野蛮で猛烈で「盲目の」自然。人間はそこまで盲目でも野蛮でもないと我々は思いたがっている、そんな自然の一部として。」(127頁)
(10) 芸術をとりまく環境
 「描写の手段(技)、つまりスタイル、技法、描写の対象は、芸術をとりまく環境である。それはちょうど、アーティストの特性(生き方、能力、生活条件など)が芸術をとりまく環境であるのと同じである。」(134頁)
 「技法は、私の意図や影響のおよぶ外にある。」(94頁)
(11) グループ
 「同じ考えの画家との交流・・・・・・グループが、私にとって非常に重要だ。一人ではなにごともうまくいかない。ときに我々は話し合いながら考えを発展させた。」(92頁)

3 リヒターのコメント(「写真/絵画論」に基づく)
 ミニマル 101頁
 マティス 101頁
 グレン・グールド 105頁
 バゼリッツ 106、125頁
 キーファー 107頁
 ボイス 110頁
 シェーンベルク 112頁
 ハインツ・フリードリヒ 113頁
 アンディ・ウォーホル 122頁


投稿者名 管理者 投稿日時 2011年12月01日 | Permalink