会社法施行規則の改正:122条2項の新設

平成30年法務省令第5号

会社法施行規則の一部を改正する省令が、平成30年3月26日に公布され、同日に施行された。

会社法施行規則119条3号及び122条1号

会社法上、株式会社は、各事業年度に係る事業報告およびその附属明細書を作成しなければならないが(会社法435条2項)、会社法施行規則では、公開会社は、『事業年度の末日において』株式の保有割合が上位10名の株主に関する所定の事項を事業報告の内容としなければならないと定めている(会社法施行規則119条3号、改正前122条1号[改正後は、1項1号])。

会社法施行規則122条2項の新設

これに対して、改正法では、会社法施行規則122条2項を以下の内容の条項を新設した。すなわち、『当該事業年度に関する定時株主総会において議決権を行使することができる者を定めるための法第百二十四条第一項に規定する基準日を定めた場合において、当該基準日が当該事業年度の末日後の日であるときは、前項第一号に掲げる事項については、当該基準日において発行済株式の総数に対するその有する株式の数の割合が高いことにおいて上位となる十名の株主の氏名又は名称、当該株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数を含む。)及び当該株主の有する株式に係る当該割合とすることができる。この場合においては、当該基準日を明らかにしなければならない。』
簡単に言えば、今までは、事業年度末日を基準として報告しなければならなかったものを、それに代えて、議決権行使基準日を基準として報告することも、できるようになったのである。

改正の趣旨

金融審議会が設置したディスクロージャー・ワーキング・グループは、平成28年4月18日に、報告書を公表した。そこでは、上場会社の定時株主総会の開催時期が6月下旬に集中していることから、必要があれば、開催日を7月に遅らせることを検討すべき、そのための障害の除去を求めている。そして、その具体的な方策の一つとして、株式の保有割合が上位10名の株主に関する事項の記載及び有価証券報告書における大株主の状況の記載について、事業年度の末日ではなく、議決権行使基準日にできることが望ましいとされている。
これを受けて、平成30年3月26日に、企業内容等の開示に関する内閣府令が改正され(平成30年内閣府令第3号)、有価証券報告書における『大株主の状況』等の記載について、事業年度末日原則から、議決権行使基準日原則に変更された。同日、金融庁から、公布され、施行されている。
そこで、会社法でも、これに対応するために、会社法施行規則122条2項が新設されることとなった。金商法規制と会社法規制のダブルスタンダードが生じないようにするためである。
なお、会社法施行規則の改正と共に、会社計算規則の改正も行われている。
http://www.moj.go.jp/content/000011286.pdf


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年05月02日 | Permalink

民法改正による会社法改正(4) 詐害的会社分割規定の改正

詐害行為取消権に関する民法規定の改正

 民法424条1項ただし書において、「債権者を害すべき事実を」が、「債権者を害することを」に、改正されました。
 また、詐害行為取消権に関する民法426条の規定は、「第四二四条の規定による取消権は、債権者が取消の原因を知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」とされていますが、新民法426条は、「詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から二年を経過したむときは、提起することができない。行為の時から十年を経過したときも、同様とする。」と改正しました。
 実質的には、後段の期間が、20年から10年に短縮されたことになります。

詐害的会社分割の取消に関する会社法の規定の改正

 まず、会社法759条4項ただし書及び761条4項ただし書において、「残存債権者を害すべき事実を」が、「残存債権者を害することを」に改正されました。
 また、会社法759条6項及び761条6項において、「効力発生日から二十年を経過したときも」が、「効力発生日から十年を経過したときも」に、改正されました。

詐害的事業譲渡に関する会社法の規定の改正

 会社分割と同様に、事業譲渡においても、詐害的事業譲渡に関する規定において、詐害的会社分割に関する規定の改正と同様の改正がなされました。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年04月12日 | Permalink

民法改正による会社法改正(3)法定利率規定の廃止

商事法定利率規定(商法514条)の削除

民法の法定利率制度の見直しに伴い、商事法定利率規定(商法514条)が削除され、商取引にも、民事法定利率規定(新民法404条2項)が適用されることになりました。簡単に言えば、年利6%が、年利3%に下がります。

会社法における法定利率規定の削除

会社法が単行法として成立する以前は、会社取引については、会社が商人であることから(商法4条1項)、商事法定利率(商法514条)が適用されていました。しかし、会社法では、商法の準用を避けるという立法方針から、商事法定利率規定の準用ではなく、会社法条文として、独自に規定を定めていました。具体的には、会社法117条4項、119条4項182条の5第4項、470条4項、778条4項、786条4項、798条4項、807条4項です。いずれも、株式(新株予約権)買取請求の価格決定に関する遅延損害金の法定利率の規定で、商事法定利率と同様、年利6%と定められていました。また、会社法172条4項、179条の8第2項及び611条6項にも、同様の規定があります。本来は、商事法定利率の準用で良かったのですが。
そこで、「株式会社は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の法定利率による利息をも支払わなければならない。」と改正されることになりました。したがって、ここでも、年利6%から年利3%への変更となります。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年03月30日 | Permalink

民法改正による会社法改正(2):会社法356条2項の改正

民法108条本文の改正:第1項本文として改正

民法108条は、【自己契約及び双方代理】という表題部のある規定で、代理人の利益相反取引を規制した条文です。しかし、この規定については、違反の効力が特に規定されてはいなかったので、判例により、民法113条の無権代理無効として解釈されてきました。
改正法では、新民法108条1項は、同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。」と改正され、違反行為が無権代理行為であることを明文化しました。
このように、判例が確立している場合に、改正の機会に、条文に取り入れることは、ままあることです。ただし、判例が確立していても、学説が対立しているような場合には、取り入れられることは見送られますね。
なお、第1項ただし書は、議論がありましたが、改正なしです。

民法108条2項の新設

このような改正に加えて、第2項が追加されました。
「前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しないと者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。」という条文の新設です。
民法108条1項は、「同一の法律行為」に限定された規定ですので、同一の法律行為ではない場合でも、利益相反があれば、同様に規制するというものです。このような考え方は、判例によりすでに、民法108条類推適用として認められてきたものです。
したがって、この改正も、判例が確立しているものを条文に取り入れたものといえます。

会社法356条と民法108条の関係

会社法356条1項2号は、取締役の利益相反取引を規制する条文です。ただし、代表取締役だけでなく、平取締役も規制の対象です。したがって、新民法108条1項よりも、その適用範囲が広くできています。そして、会社法356条では、取締役の利益相反取引も、会社の承認(株主総会又は取締役会の承認)があれば、適法に行えるとしています。しかし、承認があった場合でも、新民法108条1項違反になるので、その適用を排除するために、会社法356条2項で、会社法356条1項2号の承認があった場合には、民法108条を適用しない旨規定されていました。

会社法356条2項の改正

その後、取締役の利益相反取引については、判例により、いわゆる間接取引についても、解釈的に規制されるようになりました。その考え方を、条文に取り入れたのが、会社法356条1項3号です。しかし、その際には、民法108条1項は、同一の法律行為のみを規制していたので、問題は生じませんでした。
ところが、このように新民法108条2項の新設により、会社法356条1項3号と、その規制の範囲が重なるようになってしまいました。そこで、会社法356条2項が以下のように改正されました。
「民法百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号又は第三号の取引については、適用しない。」として、第3号の間接取引についても、承認を得た場合には、新民法108条が適用されないことを明文化することとなりました。
まあ、改正前から、間接取引については、承認あれば適法とされてきたので、そういう意味では、実質改正とは、いえないかもしれませんね。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年03月23日 | Permalink

民法改正による会社法改正(1):意思表示の瑕疵

商法とともに、会社法も改正される

会社法は、古い時代には、商法第2編「会社」として存在していたので、民法改正の影響は、商法だけの改正で済んでいたが、現在は、会社法は、商法から分離・独立して、単行法として、「会社法」として存在している。したがって、民法改正により、商法だけでなく、会社法も影響を受け、改正されることになる。改正の根拠法は、やはり、「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」である。いわゆる民法整備法である。

意思表示に関する規定の改正

民法95条が改正され、錯誤の効果は、無効から取消に変更された。
会社法51条2項、102条6項及び211条2項は、株式引受に関する錯誤による無効主張を制限しているが、民法改正により、錯誤の効果が取消に変更されたことにより、詐欺や強迫と同様に、「取消すことができない」と改正された。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年03月16日 | Permalink