商法(運送・海商)の改正(4)高価品の特則の責任限定

 高価品の特則については、悪意又は重過失がある場合にも、免責を認めるべかどうかで、これまでも論争があり、一部の下級審では、重過失の場合に完全免責は認めず、普通品としての損害に限定したものもあった。
 改正の作業では、「無謀な行為」に限るという考え方も出されたが、日本の法律にあまりなじみのない用語であることから、「故意又は重過失」がある場合には、高価品特則に基づく免責はされないこととなった(新商法577条2項2号)。かつての東京地裁の考え方は多数説であったので、それに従うこととなった。
 また、同様に、運送人が高価品であることについて悪意である場合も、高価品特則免責はされないこととなった(新商法577条2項1号)。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年11月30日 | Permalink

商法(運送・海商)の改正(3)荷送人の危険物通知義務

 旧商法には、高価品の特則はあっても、危険物に関する特則は置かれていなかった。しかし、新法は、国際海上物品運送法ないし最近の判例の動向などを踏まえ、危険物に関する規定を新設した。
 具体的には、運送人に対して、危険物を運送する場合には、引き渡しの前に、その旨及び当該存送品の品名、性質その他当該運送品の安全な運送に必要な情報を通知する義務を、荷送人に負わせた(新商法572条)。
 危険物の定義については、消防法等に様々な詳細な定義があるが、これらの特別法とは異なり、六法という一般法的法律の一つである商法という性質に鑑み、抽象的に、「引火性、爆発性その他の危険性を有するもの」という定義に止めた。この点は、実際の法適用において、新たな解釈論を必要とすることになる。
 また、通知をしなかった場合の荷送人の損害賠償責任については、無過失責任という議論もなされたようであるが、最終的には、無過失責任とすることは見送られた。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年11月22日 | Permalink

商法(運送・海商)の改正(2)総則

 旧商法における第8章の運送営業の第1節の総則は、ただ一条で、運送人の定義が、しかも、陸上運送人の定義が置かれていた。
 しかし、新商法では、総則として、総則らしく、すべての運送営業に関する定義規定を置いている。具体的には、旧商法と同様、一条ではあるが、「運送人」(1号)、「陸上運送」(2号)、「海上運送」(3号)、及び、「航空運送」(4号)と、4つの定義規定を置いた。まさしく、すべての運送営業に、共通する総則となった。
 まず、運送人の定義については、旧商法は、陸上運送人の定義に過ぎなかったものを、陸上、海上、及び、航空の三者の共通規定とした(1号)。
 つぎに、陸上運送の定義については、旧商法は、湖川港湾も陸上に含まれていたが、瀬戸内海も、平水区域とされるために、湖川港湾に含まれてしまっていたために、瀬戸内海での運行に、海上運送規制は及ばないという社会通念に反する状態が生まれていた。そこで、新法では、単に、「陸上」とのみ規定し、湖川港湾という文言は削除された(2号)。この結果、海上運送に、「非航海船」による運送が含まれることとなった(新商法747条)。
 また、海上運送の定義が新設され(3号)、かつ、このことにより、海上運送は、航海船による運送(新商法684条)と非航海船による運送とが含まれる概念となり、従来の海商法よりも、適用範囲が広がった。
 最後に、航空運送の定義規定も新設された(4号)。これまで、航空運送は、約款等にすべて委ねられており、約款款の不公平さも問題となっていた。このことにより、航空運送も、運送人として、運送法の適用を原則として受けることになるが、しかし、その実質は、圧倒的に約款の役割が大きい。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年11月22日 | Permalink

商法(運送・海商)の改正(1)概要

商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律

 成30年5月18日に国会で、標記の律案が可決し、同月25日に法律第29号として公布された。
 商法は、すでに、会社法が独立し口語化され、さらに、保険法も、独立し口語化されている。また、商行為も、民法改正に合わせて、改正され、口語化されている。そして、最後に残っていた、運送や海商の部分が改正され、口語化された。
 運送・海商の本格的な改正は、1899年の商法施行以来約120年ぶりとなるものである。六法の中で、最後までカタカナ表記が残されてたが、ついに、六法は完全口語化となった。
 このコラムでは、以下の回で連載して、改正内容について、コメントする。
 新年度版の六法の購入は必須である。
 なお、先ほど開催された今年度の日本海法学会(当職が理事を務める)のミニ・シンポジウムでは、この運送・海商の改正を前提に、解釈論的な新たな問題点を検討するというものであった。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年10月19日 | Permalink

会社法第2次改正中間試案

経緯

会社法第1次改正の際に、その附則25条で、2年を経過した場合に必要な改正を行うべしとされ、2017年2月9日諮問において、会社法制の見直しの要綱案が求められた。
これを受けて、法制審議会では会社法制(企業統治等)部会の審議を開始した(部会長:神田秀樹)。
そして、2018年2月14日第10回会議において、中間試案がとりまとめられた。パブリックコメントは、2018年4月13日で締め切られている。
中間試案
中間試案の補足説明
中間試案の概要

第1部 株主総会に関する規律の見直し

具体的には、株主総会資料の電子提供制度の創設、株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備などが盛り込まれている。

第2部 取締役等に関する規律の見直し

具体的には、取締役等の報酬に関する規律の見直しや、会社補償に関する規律の整備や役員等賠償責任保険契約に関するむ規律の整備や社外取締役を置くことの義務付け等がむ盛り込まれている。

第3部 社債管理等に関する規律の見直し

具体的には、社債の管理に関する規律の見直しや株式交付制度の創設や議決権行使書面の閲覧拒否事由の新設等が盛り込まれている。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年07月26日 | Permalink