商法(運送・海商)の改正(6)被用者の不法行為責任

 運送人の損害賠償責任は、通常、その被用者の行為によって生じる。そして、荷受人・荷受人は、運送人に対する損害賠償請求とともに、当該被用者に対する不法行為責任に基づく損害賠償請求が行われる。
 このように状況のももとでは、改正商法587条により債務不履行責任の制限的規定を運送人に対する不法行為責任に準用しても、結局は、荷送人・荷受人が被用者の不法行為責任を追及し、運送人が被用者からの求償に応じれば、運送人は、責任制限をうけることができなくなってしまう。
 そこで、被用者の不法行為責任も、運送人の責任制限が及ぶことにして、この循環を解消することとした。

新商法588条(運送人の被用者の不法行為責任)
 前条の規定により運送品の滅失等についての運送人の損害賠償責任が免除され、又は軽減される場合には、その責任が免除され、む又は軽減さける限度において、その運送品の滅失等についての運送人の被用者の荷送人又は荷受人に対する不法行為による損害賠償の責任も、免除され、又は軽減される。
2 前項の規定は、運送人の被用者の故意又は重大な過失によって運送品の滅失等が生じたときは、適用しない。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年12月13日 | Permalink

商法(運送・海商)の改正(5)損害賠償請求権の競合

 運送人に対する債務不履行損害賠償請求権と不法行為損害賠償請求権との競合については、判例は、原則として、肯定する立場を採用してきた。
 しかし、それでは、商法が様々な責任制限規定を置いて、運送の責任を限定しても、不法行為責任の追及により、無に帰することとなっていた。
 そこで、判例も、宅急便の事件において、信義則上責任制限限度額を超えて運送人に対して損害の賠償を求めることはできないとして、その姿勢を変更し始めていた。
 それを受けて、改正商法は、運送人の責任制限のいくつかの規定を、不法行為責任の追及にも及ぼすことを定めた。ほぼその通り、判例の考え方を採用した。

新商法第587条(運送人の不法行為責任)
 第576条、第577条、第584条及び第585条の規定は、運送人の滅失等について運送人の荷送人に又は荷受人に対する不法行為による損害賠償の責任について準用する。ただし、荷受人があらかじめ荷送人の委託による運送を拒んでいたにもかかわらず荷送人から運送を引きうけた運送人の荷受人に対する責任については、この限りでない。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年12月06日 | Permalink

商法(運送・海商)の改正(4)高価品の特則の責任限定

 高価品の特則については、悪意又は重過失がある場合にも、免責を認めるべかどうかで、これまでも論争があり、一部の下級審では、重過失の場合に完全免責は認めず、普通品としての損害に限定したものもあった。
 改正の作業では、「無謀な行為」に限るという考え方も出されたが、日本の法律にあまりなじみのない用語であることから、「故意又は重過失」がある場合には、高価品特則に基づく免責はされないこととなった(新商法577条2項2号)。かつての東京地裁の考え方は多数説であったので、それに従うこととなった。
 また、同様に、運送人が高価品であることについて悪意である場合も、高価品特則免責はされないこととなった(新商法577条2項1号)。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年11月30日 | Permalink

商法(運送・海商)の改正(3)荷送人の危険物通知義務

 旧商法には、高価品の特則はあっても、危険物に関する特則は置かれていなかった。しかし、新法は、国際海上物品運送法ないし最近の判例の動向などを踏まえ、危険物に関する規定を新設した。
 具体的には、運送人に対して、危険物を運送する場合には、引き渡しの前に、その旨及び当該存送品の品名、性質その他当該運送品の安全な運送に必要な情報を通知する義務を、荷送人に負わせた(新商法572条)。
 危険物の定義については、消防法等に様々な詳細な定義があるが、これらの特別法とは異なり、六法という一般法的法律の一つである商法という性質に鑑み、抽象的に、「引火性、爆発性その他の危険性を有するもの」という定義に止めた。この点は、実際の法適用において、新たな解釈論を必要とすることになる。
 また、通知をしなかった場合の荷送人の損害賠償責任については、無過失責任という議論もなされたようであるが、最終的には、無過失責任とすることは見送られた。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年11月22日 | Permalink

商法(運送・海商)の改正(2)総則

 旧商法における第8章の運送営業の第1節の総則は、ただ一条で、運送人の定義が、しかも、陸上運送人の定義が置かれていた。
 しかし、新商法では、総則として、総則らしく、すべての運送営業に関する定義規定を置いている。具体的には、旧商法と同様、一条ではあるが、「運送人」(1号)、「陸上運送」(2号)、「海上運送」(3号)、及び、「航空運送」(4号)と、4つの定義規定を置いた。まさしく、すべての運送営業に、共通する総則となった。
 まず、運送人の定義については、旧商法は、陸上運送人の定義に過ぎなかったものを、陸上、海上、及び、航空の三者の共通規定とした(1号)。
 つぎに、陸上運送の定義については、旧商法は、湖川港湾も陸上に含まれていたが、瀬戸内海も、平水区域とされるために、湖川港湾に含まれてしまっていたために、瀬戸内海での運行に、海上運送規制は及ばないという社会通念に反する状態が生まれていた。そこで、新法では、単に、「陸上」とのみ規定し、湖川港湾という文言は削除された(2号)。この結果、海上運送に、「非航海船」による運送が含まれることとなった(新商法747条)。
 また、海上運送の定義が新設され(3号)、かつ、このことにより、海上運送は、航海船による運送(新商法684条)と非航海船による運送とが含まれる概念となり、従来の海商法よりも、適用範囲が広がった。
 最後に、航空運送の定義規定も新設された(4号)。これまで、航空運送は、約款等にすべて委ねられており、約款款の不公平さも問題となっていた。このことにより、航空運送も、運送人として、運送法の適用を原則として受けることになるが、しかし、その実質は、圧倒的に約款の役割が大きい。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年11月22日 | Permalink