会社法改正要綱案・各論(6)取締役の保険

 今回の改正要綱案の取締役に関するものの最後として、取締役の保険契約についての規制がある。
 すなわち、「会社が役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を填補する保険契約の締結については、役員等を被保険者とするものの内容の決定は、取締役会の決議によらなけれぱならない。」とするものである。そして、その代わりに、利益相反取引の適用除外、民法108条の適用除外とする。
 いわゆるD&D保険(会社役員賠償責任保険)を念頭において、その手続き規制を導入しようとするものである。D&D保険は、すでにわが国においても上場会社を中心に広く普及しているところであるが、一般的に利益相反的構造を有し、特に、間接利益相反取引の該当しうるものもある。
 そこで、実務に任せることなく、法的な手続規制を導入することとした。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年05月17日 | Permalink

会社法改正要綱案・各論(5)社外取締役

今回の会社法改正要綱案では、社外取締役に関し、二つの改正点が提案されている。
第1が、社外取締役に業務執行権を例外的に付与できるという制度と、第2が社外取締役を上場会社については、完全義務化するという制度である。

(1)社外取締役への業務執行権の例外的付与
 社外取締役の要件としては、非業務執行性が定められているが(会社法2条15号)、要綱案では、例外的に、業務執行権の付与を認めようというのである。
 すなわち、「会社(指名委員会等設置会社を除く。)社外取締役を置いている場合に、会社と取締役との利益が相反する状況にあるときは、又は、その他の取締役が業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、その都度、取締役会の決定によって、社外取締役に業務の執行を委託することができる。」とするものである。なお、これによっても、非業務執行性は、維持されるとされる。
 具体的には、MOB等の場面において、取締役が利益相反の関係にあるときとか、キャッシュアウトにおいて大株主が取締役である場合等が想定されている。

(2)社外取締役の上場会社の完全義務化
 先の改正で、見送りになりになっていた懸案であるが、要綱案では、ついに、上場会社については社外取締役の完全設置義務を提案している。
 上場会社については、すでに、証券取引所の上場要件等の圧力により、上場会社ではほぼ社外取締役を選任しているので、それほど大きな影響はないと考えられる。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年05月17日 | Permalink

会社法改正要綱案・各論(4)補償契約

 第4回目となった今回は、取締役等への「補償契約」規定の新設を取り上げます。
 補償という概念は、会社法では初めての用語だと思われます。簡単に言えば、取締役がその職務の執行に関して発生させた費用や損失の全部又は一部を会社が負担してくれることです。これまで、このような「補償」制度は、会社法には存在していませんでしたが、実務では、一定程度行われていました。例えば、取締役が第三者から責任追及をされた場合で、取締役に過失がないような場合には、その取締役が要した裁判等に係る費用は、会社法330条や民法650条を根拠に、会社からの補償が認められているのです。
 しかし、このような実務を安易に野放しにすると濫用のおそれもあることから、特に、構造的には利益相反取引の範疇にはいるので、手続規制を導入することにしたのです。
 「役員等に対して次に掲げる費用等の全部又は一部を当該会社が報償する契約」を「補償契約」と定義し、この「補償契約」を締結するためには、取締役会の決議によらなければならいとして、取締役会の専決事項とするという考え方を示しました。もちろん、会社法423条の過失がある場合や、会社法429条の悪意又は重過失がある場合には、補償ができないというブレーキも示されています。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年04月04日 | Permalink

会社法改正要綱案・各論(3)取締役の報酬規制

 指名等委員会設置会社を除けば、取締役の報酬等は、株主総会決議または定款で定められ(会社法361条)、個人別の報酬等については、取締役会ないし代表取締役が決定している。これに対して、要綱案は、取締役会で、個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針を定めなければならないとした。この規制が及ぶ対象は、上場会社たる監査役会設置会社と、監査等委員会設置会社である。
 第2に、金銭でない報酬等について、会社法361条1項3号を改正して、①株式又は株式の取得資金に充てるための金銭、②新株予約権又は新株予約権を取得資金充てるための金銭、及び、③これら以外の金銭でないものは、定款又は株主総会決議で決定することを要するとする改正案である。すなわち、①と②を加えるということである。
 第3に、取締役の報酬等である「自己株式」・「自己新株予約権」について、出資の履行を要しない旨を定める場合には、会社法199条1項2号・4号、236条1項2号を適用しないとするものである。なお、この特則は、上場会社にのみ認められる。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年03月22日 | Permalink

会社法改正要綱案・各論(2)株主提案権規制

 会社法改正要綱案の株主総会に関するもう一つのテーマが、「株主提案権規制」。最近、大量の株主提案を提出し、招集通知への記載を求める事件が発生していた。このことから、規制の声が産業界から上がっていた。
 そこで、第1に、株主提案できる数に対する規制として、会社法305条に基づく議案要領通知請求権について、「10を超える数に相当することとなる数の議案については、適用しないものとする。」という規制である。ただし、あくまでも、会社法305条に対する規制であり、会社法303条、304条については、制限は設けない。なお、記載される議案選択は、株主が優先順位を定めている等がなければ、原則として、取締役が定めるものとされた。
 第2の規制は、目的による制限である。すなわち、会社法304条及び305条に関して、「専ら名誉侵害、屈辱、不正な利益獲得等を目的とする場合」と「総会の適切な運営が著しく妨げられ、株主共同の利益が害されるおそれがある場合」には、議案の提出・通知請求が制限される。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年03月22日 | Permalink