商法(運送・海商)の改正(2)総則

 旧商法における第8章の運送営業の第1節の総則は、ただ一条で、運送人の定義が、しかも、陸上運送人の定義が置かれていた。
 しかし、新商法では、総則として、総則らしく、すべての運送営業に関する定義規定を置いている。具体的には、旧商法と同様、一条ではあるが、「運送人」(1号)、「陸上運送」(2号)、「海上運送」(3号)、及び、「航空運送」(4号)と、4つの定義規定を置いた。まさしく、すべての運送営業に、共通する総則となった。
 まず、運送人の定義については、旧商法は、陸上運送人の定義に過ぎなかったものを、陸上、海上、及び、航空の三者の共通規定とした(1号)。
 つぎに、陸上運送の定義については、旧商法は、湖川港湾も陸上に含まれていたが、瀬戸内海も、平水区域とされるために、湖川港湾に含まれてしまっていたために、瀬戸内海での運行に、海上運送規制は及ばないという社会通念に反する状態が生まれていた。そこで、新法では、単に、「陸上」とのみ規定し、湖川港湾という文言は削除された(2号)。この結果、海上運送に、「非航海船」による運送が含まれることとなった(新商法747条)。
 また、海上運送の定義が新設され(3号)、かつ、このことにより、海上運送は、航海船による運送(新商法684条)と非航海船による運送とが含まれる概念となり、従来の海商法よりも、適用範囲が広がった。
 最後に、航空運送の定義規定も新設された(4号)。これまで、航空運送は、約款等にすべて委ねられており、約款款の不公平さも問題となっていた。このことにより、航空運送も、運送人として、運送法の適用を原則として受けることになるが、しかし、その実質は、圧倒的に約款の役割が大きい。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年11月22日 | Permalink

商法(運送・海商)の改正(1)概要

商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律

 成30年5月18日に国会で、標記の律案が可決し、同月25日に法律第29号として公布された。
 商法は、すでに、会社法が独立し口語化され、さらに、保険法も、独立し口語化されている。また、商行為も、民法改正に合わせて、改正され、口語化されている。そして、最後に残っていた、運送や海商の部分が改正され、口語化された。
 運送・海商の本格的な改正は、1899年の商法施行以来約120年ぶりとなるものである。六法の中で、最後までカタカナ表記が残されてたが、ついに、六法は完全口語化となった。
 このコラムでは、以下の回で連載して、改正内容について、コメントする。
 新年度版の六法の購入は必須である。
 なお、先ほど開催された今年度の日本海法学会(当職が理事を務める)のミニ・シンポジウムでは、この運送・海商の改正を前提に、解釈論的な新たな問題点を検討するというものであった。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年10月19日 | Permalink

会社法第2次改正中間試案

経緯

会社法第1次改正の際に、その附則25条で、2年を経過した場合に必要な改正を行うべしとされ、2017年2月9日諮問において、会社法制の見直しの要綱案が求められた。
これを受けて、法制審議会では会社法制(企業統治等)部会の審議を開始した(部会長:神田秀樹)。
そして、2018年2月14日第10回会議において、中間試案がとりまとめられた。パブリックコメントは、2018年4月13日で締め切られている。
中間試案
中間試案の補足説明
中間試案の概要

第1部 株主総会に関する規律の見直し

具体的には、株主総会資料の電子提供制度の創設、株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備などが盛り込まれている。

第2部 取締役等に関する規律の見直し

具体的には、取締役等の報酬に関する規律の見直しや、会社補償に関する規律の整備や役員等賠償責任保険契約に関するむ規律の整備や社外取締役を置くことの義務付け等がむ盛り込まれている。

第3部 社債管理等に関する規律の見直し

具体的には、社債の管理に関する規律の見直しや株式交付制度の創設や議決権行使書面の閲覧拒否事由の新設等が盛り込まれている。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年07月26日 | Permalink

会社法施行規則の改正:122条2項の新設

平成30年法務省令第5号

会社法施行規則の一部を改正する省令が、平成30年3月26日に公布され、同日に施行された。

会社法施行規則119条3号及び122条1号

会社法上、株式会社は、各事業年度に係る事業報告およびその附属明細書を作成しなければならないが(会社法435条2項)、会社法施行規則では、公開会社は、『事業年度の末日において』株式の保有割合が上位10名の株主に関する所定の事項を事業報告の内容としなければならないと定めている(会社法施行規則119条3号、改正前122条1号[改正後は、1項1号])。

会社法施行規則122条2項の新設

これに対して、改正法では、会社法施行規則122条2項を以下の内容の条項を新設した。すなわち、『当該事業年度に関する定時株主総会において議決権を行使することができる者を定めるための法第百二十四条第一項に規定する基準日を定めた場合において、当該基準日が当該事業年度の末日後の日であるときは、前項第一号に掲げる事項については、当該基準日において発行済株式の総数に対するその有する株式の数の割合が高いことにおいて上位となる十名の株主の氏名又は名称、当該株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数を含む。)及び当該株主の有する株式に係る当該割合とすることができる。この場合においては、当該基準日を明らかにしなければならない。』
簡単に言えば、今までは、事業年度末日を基準として報告しなければならなかったものを、それに代えて、議決権行使基準日を基準として報告することも、できるようになったのである。

改正の趣旨

金融審議会が設置したディスクロージャー・ワーキング・グループは、平成28年4月18日に、報告書を公表した。そこでは、上場会社の定時株主総会の開催時期が6月下旬に集中していることから、必要があれば、開催日を7月に遅らせることを検討すべき、そのための障害の除去を求めている。そして、その具体的な方策の一つとして、株式の保有割合が上位10名の株主に関する事項の記載及び有価証券報告書における大株主の状況の記載について、事業年度の末日ではなく、議決権行使基準日にできることが望ましいとされている。
これを受けて、平成30年3月26日に、企業内容等の開示に関する内閣府令が改正され(平成30年内閣府令第3号)、有価証券報告書における『大株主の状況』等の記載について、事業年度末日原則から、議決権行使基準日原則に変更された。同日、金融庁から、公布され、施行されている。
そこで、会社法でも、これに対応するために、会社法施行規則122条2項が新設されることとなった。金商法規制と会社法規制のダブルスタンダードが生じないようにするためである。
なお、会社法施行規則の改正と共に、会社計算規則の改正も行われている。
http://www.moj.go.jp/content/000011286.pdf


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年05月02日 | Permalink

民法改正による会社法改正(4) 詐害的会社分割規定の改正

詐害行為取消権に関する民法規定の改正

 民法424条1項ただし書において、「債権者を害すべき事実を」が、「債権者を害することを」に、改正されました。
 また、詐害行為取消権に関する民法426条の規定は、「第四二四条の規定による取消権は、債権者が取消の原因を知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」とされていますが、新民法426条は、「詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から二年を経過したむときは、提起することができない。行為の時から十年を経過したときも、同様とする。」と改正しました。
 実質的には、後段の期間が、20年から10年に短縮されたことになります。

詐害的会社分割の取消に関する会社法の規定の改正

 まず、会社法759条4項ただし書及び761条4項ただし書において、「残存債権者を害すべき事実を」が、「残存債権者を害することを」に改正されました。
 また、会社法759条6項及び761条6項において、「効力発生日から二十年を経過したときも」が、「効力発生日から十年を経過したときも」に、改正されました。

詐害的事業譲渡に関する会社法の規定の改正

 会社分割と同様に、事業譲渡においても、詐害的事業譲渡に関する規定において、詐害的会社分割に関する規定の改正と同様の改正がなされました。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年04月12日 | Permalink