会社法改正要綱案・各論(3)取締役の報酬規制

 指名等委員会設置会社を除けば、取締役の報酬等は、株主総会決議または定款で定められ(会社法361条)、個人別の報酬等については、取締役会ないし代表取締役が決定している。これに対して、要綱案は、取締役会で、個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針を定めなければならないとした。この規制が及ぶ対象は、上場会社たる監査役会設置会社と、監査等委員会設置会社である。
 第2に、金銭でない報酬等について、会社法361条1項3号を改正して、①株式又は株式の取得資金に充てるための金銭、②新株予約権又は新株予約権を取得資金充てるための金銭、及び、③これら以外の金銭でないものは、定款又は株主総会決議で決定することを要するとする改正案である。すなわち、①と②を加えるということである。
 第3に、取締役の報酬等である「自己株式」・「自己新株予約権」について、出資の履行を要しない旨を定める場合には、会社法199条1項2号・4号、236条1項2号を適用しないとするものである。なお、この特則は、上場会社にのみ認められる。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年03月22日 | Permalink

会社法改正要綱案・各論(2)株主提案権規制

 会社法改正要綱案の株主総会に関するもう一つのテーマが、「株主提案権規制」。最近、大量の株主提案を提出し、招集通知への記載を求める事件が発生していた。このことから、規制の声が産業界から上がっていた。
 そこで、第1に、株主提案できる数に対する規制として、会社法305条に基づく議案要領通知請求権について、「10を超える数に相当することとなる数の議案については、適用しないものとする。」という規制である。ただし、あくまでも、会社法305条に対する規制であり、会社法303条、304条については、制限は設けない。なお、記載される議案選択は、株主が優先順位を定めている等がなければ、原則として、取締役が定めるものとされた。
 第2の規制は、目的による制限である。すなわち、会社法304条及び305条に関して、「専ら名誉侵害、屈辱、不正な利益獲得等を目的とする場合」と「総会の適切な運営が著しく妨げられ、株主共同の利益が害されるおそれがある場合」には、議案の提出・通知請求が制限される。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年03月22日 | Permalink

会社法改正要綱案

 平成31年1月16日、会社法制部会で、第2次会社法改正要綱案がとりまとめられました。
 第1部は、株主総会に関する見直しが扱われ、株主総会資料の電子提供制度と株主提案権の濫用防止が検討されています。
 第2部は、取締役に関する見直しが扱われ、取締役の報酬等等に関する規制が盛り込まれました。それと、社外取締役の義務化も。
 第3部はその他で、社債管理補助者制度の新設や株式交付制度の新設が盛り込まれています。
 なお、付帯決議として、会社代表者の住所の開示について言及されています。
 この改正については、通常国会提出が目指されている。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2019年02月08日 | Permalink

商法(運送・海商)の改正(5)損害賠償請求権の競合

 運送人に対する債務不履行損害賠償請求権と不法行為損害賠償請求権との競合については、判例は、原則として、肯定する立場を採用してきた。
 しかし、それでは、商法が様々な責任制限規定を置いて、運送の責任を限定しても、不法行為責任の追及により、無に帰することとなっていた。
 そこで、判例も、宅急便の事件において、信義則上責任制限限度額を超えて運送人に対して損害の賠償を求めることはできないとして、その姿勢を変更し始めていた。
 それを受けて、改正商法は、運送人の責任制限のいくつかの規定を、不法行為責任の追及にも及ぼすことを定めた。ほぼその通り、判例の考え方を採用した。

新商法第587条(運送人の不法行為責任)
 第576条、第577条、第584条及び第585条の規定は、運送人の滅失等について運送人の荷送人に又は荷受人に対する不法行為による損害賠償の責任について準用する。ただし、荷受人があらかじめ荷送人の委託による運送を拒んでいたにもかかわらず荷送人から運送を引きうけた運送人の荷受人に対する責任については、この限りでない。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年12月06日 | Permalink

商法(運送・海商)の改正(3)荷送人の危険物通知義務

 旧商法には、高価品の特則はあっても、危険物に関する特則は置かれていなかった。しかし、新法は、国際海上物品運送法ないし最近の判例の動向などを踏まえ、危険物に関する規定を新設した。
 具体的には、運送人に対して、危険物を運送する場合には、引き渡しの前に、その旨及び当該存送品の品名、性質その他当該運送品の安全な運送に必要な情報を通知する義務を、荷送人に負わせた(新商法572条)。
 危険物の定義については、消防法等に様々な詳細な定義があるが、これらの特別法とは異なり、六法という一般法的法律の一つである商法という性質に鑑み、抽象的に、「引火性、爆発性その他の危険性を有するもの」という定義に止めた。この点は、実際の法適用において、新たな解釈論を必要とすることになる。
 また、通知をしなかった場合の荷送人の損害賠償責任については、無過失責任という議論もなされたようであるが、最終的には、無過失責任とすることは見送られた。


投稿者名 池野 千白 投稿日時 2018年11月22日 | Permalink