不貞行為

 日本における離婚制度は,協議上(示談・調停)で離婚できない場合,離婚訴訟を提起の上で判決による離婚形成が必要になります。裁判上の離婚については,離婚原因が法定されており,1番目に登場するのが「配偶者に不貞な行為があったとき。」(民法770条1項1号)です。
 不貞行為とは一体どんな行為なのか,説明していきたいと思います。

不貞行為の意義

 判例では,不貞行為とは「配偶者ある者が配偶者以外の者と相互に自由意思に基づいて性的関係を結ぶこと」と定義されています。〔最一小判昭和48年11月15日民集27巻10号1323頁〕

外形的要件:性交渉(男性器の女性器への挿入)の存在
 性的関係をどこまで拡張解釈するかによりますが,性交渉が含まれることには争いがありません。裁判例を見る限り,性交渉以外の肉体的接触行動は,別の離婚原因「その他婚姻関係を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)の要素として扱われることになります。

内心的要件:自由意思の存在
 心神喪失状態にある場合や強姦された場合には,当該要件を欠き,不貞行為とはなりません。もっとも,泥酔状態のような自らの過失で招いた無意識状態中については,自由意思がなかったとは判断されないでしょう。

不倫という言葉

 不倫とは人倫に外れることであり,不貞行為も含む多義的な概念です。日本で使用される場合は,①配偶者ある者が,②配偶者以外の異性と,③親密な交友を持つという意味で使用されることが多いでしょう。
 そして,③がどこまで許容内か否かは,社会道徳や配偶者の倫理観によっても変化します。ハラスメント問題と等しく,被害者側(不倫された他方配偶者)がどのように思うかで,重さが異なってきます。
 例えば,配偶者ある者が,配偶者以外の者とキスをすることは,不貞行為ではないものの,不倫行為と評価されることはあり,程度によっては夫婦の信頼関係を著しく傷つけることになり,別の離婚原因「その他婚姻関係を継続し難い重大な事由」の要素になる可能性もあります。

不貞行為に対する社会の変化

 女性が配偶者以外の男性と性交渉をした場合,戦前は『姦通罪』(刑法183条)で2年以下の懲役刑が予定されていました。女性のみ成立しうる身分犯であり,古くは江戸時代の刑法である公事御定書にも処罰しています(刑罰は重く,妻と不倫相手は死刑でした。)。
 戦後,憲法14条に所定する法の下の平等に反するとして,削除されました。
 現在では,裁判上の離婚原因に直接(不貞行為の場合)又はその要素(不貞行為以外の性的関係の場合)となる点,不貞配偶者の他方配偶者に対する貞操義務違反及び不貞第三者の他方配偶者に対する「夫婦としての実体を有する婚姻共同生活の平和の維持」を侵害する不法行為になる点,つまり民事上の意義を有するに止まります。

一時的な関係の場合は?

 不貞行為の外形的要件は,性的関係が一時的な関係であるか継続的関係であるか,同棲を伴うか否か,売春的行為であるか否か,又は売春婦を相手方とした行動であるか否かは問わないと考えられています。
 そのため,一度だけの性交渉でも不貞行為に該当し,風俗店で性交渉をすることも不貞行為に該当します。


投稿者名 柴垣直哉 投稿日時 2016年12月19日 | Permalink