離婚の際,婚姻期間中に形成された夫婦共有財産については,財産分与で清算されます。清算割合は,特段の事情が無い限り,2分の1とするのが現在の裁判実務です。

 清算割合は,夫婦共有財産を築いた寄与度によって決まってきますが,一昔前の様に男性が働き女性が専業主婦の世帯であっても,男性側の収入は女性側の“内助の功”によって支えられているという経験則から,2分の1とすることが一般的です。

 例外として,当事者の一方が特殊技能等を有する高額所得者で他方が専業主婦(夫)である場合を紹介する見解もあるようですが,そのことだけで収入に対する寄与度が高額所得者側に高いとは言い切れず,清算割合を修正するような「特段の事情」としては説得力に欠けると思われます。

 もっとも,現在では核家族・共働世帯が増加しており,男女間での収入格差も減少してきています。実務運用は,専業主婦に対する救済の観点から2分の1という結論先行で処理している側面もないとはいえず,女性配偶者の労働力・経済力をしっかりと判断して寄与度を定めなければ,清算的財産分与が求める公平性を実現できないのではと思う次第です。


財産分与とは、婚姻期間中に夫婦の協力によって得た財産を分配することをいいます。

財産分与の対象となるものは、夫婦が協力して築いた不動産・動産・現金・預貯金・有価証券・投資信託・退職金・年金・生命保険金・会員権・借金・個人経営の会社の財産等です。

逆に、財産分与の対象とならない財産は、

・結婚前から個人で所有していた財産
・結婚前に与えられた財産、家財道具
・相続財産
・贈与財産
・個人で使用する日用品(衣類等)
・会社の財産

などです。

財産分与において、特に注意しておかなければならないのは、
1.婚姻生活においてできた借金(住宅ローンなど)も財産分与の対象となること
2.逆に他人から贈与されたもの、親の相続により得た財産は、固有財産にあたるため、財産分与の対象にはならないこと
の2点です。


 離婚紛争が増加する中で,離婚時に婚姻期間中に形成した財産の分割を求める手段として財産分与という制度が存在することは,広く周知されてきています。今回は,財産分与請求権(民法767条1項)について,少し掘り下げて見てみましょう。

 財産分与請求権の権利性

 財産分与請求権は,「離婚をした」当事者が請求できるものであり,一般的には離婚請求と同時期に行使されます。
 財産分与請求権は,権利行使可能期間が“離婚成立時から2年”に制限されていますが(民法768条2項但書),当事者の協議成立又は審判・調停があるまでは,具体的な内容が金銭請求なのか,特定不動産の引渡請求や登記手続請求なのか,つまるところ範囲及び内容が不確定・不明確な形成権です。
 不確定・不明確な段階では,たとえ当事者の一方が無資力状態であっても,債権者が債権者代位権によって代わって行使することはできないと考えられています。

財産分与請求権の内容

 財産分与請求権の構成要素には,①婚姻期間中に形成した財産の清算的要素,②離婚後扶養の要素,③離婚自体慰謝料の要素,以上3つが存在しており,個別に具体的分与額を算出します。
 優先順位は①と③が先行し,②については,①及び③だけでは生計維持が困難である場合にのみ認められます(補充性)。
 ③については,財産分与で考慮された場合,別途離婚自体慰謝料を請求できないのかという疑問点が生じます。この点については,判例にて財産分与での斟酌で精神的苦痛が全て慰藉された場合には別途請求することはできないが,財産分与での斟酌だけでは不足している場合には別個に慰謝料請求を実施しても良いとされています。


離婚の際、財産分与は、きわめて重要な項目となってきます。
財産分与の結果が、経済的に、今後の自分自身の人生に大いに関係してくるからです。

財産は流動的であるため、夫婦間にどれだけの財産があるのかを明らかにする際、どの時点の財産を基準とするのかを決定することが必要となってきます。
財産分与の基準時は、一緒に住んでいる場合、別居していても婚姻費用をもらっていない場合は、離婚時を基準とすることが多くあります。また、別居している夫婦の場合は、別居時を基準とすることが多くあります。

そして、財産の中で、一番身近で現実的なものが、預貯金ですが、預貯金は極めて流動的です。

しかしながら、裁判は年単位の時間を要することもあるため、現在実際ある金額と別居時の時点の金額が大きく変動することはあると思います。
別居時から財産分与の話が出てくるまでに、自分側のみ大きな出費が重なった場合、当初自分自身の中で考えていたよりも、自分の取り分が大きく減少することも考えられます。

例えば、別居するにあたり、自分が子供も引取り、子供の学費等で大きな出費が重なってしまったとします。この出費は、本来同居していれば、夫婦がふたりで払っているものであり、婚姻費用に含むことができるものです。

このようなものを自分のみが負担した場合は、領収書など、証明できるものを残しておき、財産分与の際に裁判官に提示し、かかった金額の半分を相手方に負担してもらうことが大切です。
(ここでは、子供の学費を例に挙げましたが、婚姻費用に含まれるものであれば同じことがいえます。)


 夫婦の財産を法的観点から分類すると,以下の3種類に分けることができます。
 ①婚姻前から各自が所有していた又は婚姻中に親から相続した財産など「名実ともに単独所有の財産」=『特有財産
 ②夫婦が婚姻中に資金を出し合って購入し,登記も共有名義とした不動産など「名実ともに共有の財産」=『共有財産
 ③夫婦が婚姻中に協力して取得した住宅や共同生活の基金とされる預金債権など「名義は一方に属するが実質的には共有の財産」=『実質的共有財産
 まずは,これらのうち,どれが清算的財産分与の対象となるのか,検討していきましょう。

共有状態の解消と言う観点

 財産分与請求権は,婚姻中に形成した財産の分割を求める形成権であり,そのような形成を求める実益は,共有物分割請求や遺産分割請求と同様に,対象財産が共有状態にあることからの解消を求める点にあります。
 そのため,対象財産は,共有財産となります。特有財産は,財産分与の対象外となります。

夫婦別産制との関係

 民法762条1項は,「夫婦の一方が婚姻前から有する財産」と「婚姻中に自己の名で得た財産」は,特有財産であると定めています。他方で,同条第2項で「夫婦のいずれに属するか明らかでない財産」は共有財産であると法律上推定されます。
 「婚姻中に自己の名で得た財産」については,夫婦間の体内関係においては,単に名義が夫婦の一方に属するというだけでは該当せず,単独所有であると証明できた財産,すなわち他方配偶者の寄与が全く存在しない財産であると証明できる物に限定解釈されています。
 そのため,実質的共有財産についても,財産分与の対象に原則として含まれることになり,例外的に単独所有であると証明できた場合には例外的に対象外となります


一般的な財産分与(清算的財産分与)の他に、扶養的財産分与というものがあります。

これは、離婚に際して、配偶者の一方に経済的な不安がある場合、他方の配偶者が生活費を維持することを目的とした財産分与ですが、あくまでも当面の間、生活を維持させる為になされるもので、相手の生活を生涯にわたり保障するものではありません。

例えば、長年専業主婦だった妻が自立して生活できるようになるまでの間や、病気で療養をしている場合などに、扶養的財産分与が認められます。


 財産分与請求権とは、離婚した人の一方が他方に対して財産の分与を求める権利です。(民法768条1項)
 これには、?夫婦が婚姻中に協力して蓄財した財産の清算、?離婚後の経済的弱者に対する扶養料、?相手方の有責な行為により、離婚を余儀なくされたことについての慰謝料、という三つの要素が含まれています。

 請求手続としては、離婚成立後に調停ないし審判を申し立ててもよいとされています。通常は離婚調停の中で請求し、離婚が不調となった後、離婚訴訟に附帯して請求することが多いです。

 財産分与の額及び方法は、「一切の事情」を考慮して定められます。(民法771条・768条3項)ここでいう一切の事情には、事実審の口頭弁論終結時における、当事者双方の財産状態も含まれます。

 財産分与は金銭支払をもって行われることが多いですが、金銭以外の財産をもって行うこともでき、その場合にはその財産を特定すればよいとされています。複数ある不動産、ゴルフ場会員権を夫と妻の双方に振り分け、価格の不均等を金銭的に清算した裁判例もあります。(東京地裁判決平成11年9月3日)


 離婚の話が出て、調べてみたら預金(財産)がほとんどないことがわかったというケースがあります。
 お金の管理は、妻に全て委せきりにしていて、どこの銀行に預金が作られているかも分からないという場合です。
 この場合、自分は一生懸命働いて、家計にお金を入れていたはずだから、「預金などお金が残っていなければならないはずだ。」と言ってみても、どこに財産があるかを示すことができないと、財産分与で請求することは、ほとんど困難です。
 お金の管理は、面倒なのかもしれませんが、自分で管理しないと大変な目に遭うことがあります。


 離婚給付とは、離婚の訴えに付帯して申し立てられる財産分与および離婚の訴えに併合して請求される慰謝料のことです(離婚給付に含まれる三つの要素については、前記「離婚給付について」を参照)。
 離婚給付の清算の対象は、婚姻中に夫婦が協力して形成した財産です。婚姻中に夫婦が財産を形成しなければ、財産分与は認められません。
 清算の対象とされている財産は、土地・建物・動産・債権などですが、清算の対象から除外されるものとして、以下のものがあります。


1 不動産を婚姻中に取得した場合、その資金源が分析され、親族の援助分や、夫婦の婚姻前から有する財産の出捐分は、清算の対象から除外されます。たとえば、東京地裁昭和56.10.28判決では、不動産の価格から、婚姻前の貯蓄から出捐した分と実家の援助によるローンの返済分とが清算の対象から除かれています。

2 夫または妻が婚姻する前に取得していた財産は、清算の対象ではありません。ただし、夫または妻のそのような財産の維持に、他方が協力した場合、その寄与が評価されることがあります。
  なお、取得の時期は婚姻前であっても、取得のための借入金の返済が婚姻後になされた場合には、財産分与が認められます。

3 夫または妻の相続した親の財産や、贈与された財産は、清算の対象ではありません。

4 夫または妻の婚姻前から有した財産が、婚姻中に売買などにより他の財産に姿を変えても、その財産は清算の対象ではありません。東京地裁昭和61.7.11判決は、夫が婚姻前から有していた土地を売却した代金で購入した土地・建物につき、清算の対象から除外しています。

5 別居の後で取得された財産は、清算の対象ではないという判決があります。東京地裁昭和61.9.26判決は、「清算的財産分与においては、原則として夫婦の協力関係が終了する別居時までの夫婦が婚姻中に協力して取得した財産につき考慮すれば足りると解される」と判示しています(ただし、別居後に完成したが着工は別居前の建物については、清算の対象に加えています)。東京地裁昭和62.3.30判決も、夫が別居後に取得した不動産を清算の対象から除いています。


 離婚にあたり、夫の借入である住宅ローンのついた家があり、妻がその家に住んでいるとき、妻が住み続けられるかどうか問題が生ずる。
 離婚後も夫が住宅ローンの返済を続けてくれれば、問題は生じない。
 しかし、物分りのいい夫ばかりではなく、住宅ローンの返済をストップしてしまう場合がある(もちろんそれをすると、銀行取引上、事故が起こったことになり、夫の信用に傷がつく)。
 この場合、住み続けるために妻が夫に代わって住宅ローンを払えば良いのではないかと考える人もいるだろうが、夫がそれを了解しないと、単に妻が払うからそれで済むというものではない。夫によっては、ローンが残ることを嫌がる場合があり、その場合、家を処分しなければならない状況となる。
 妻が安定的に家に住み続けたいとするならば、住宅ローンの債務者の変更をし、夫を債務者から離脱させなければならない。このためには、妻やその親族(協力者)に相当の返済力(信用)が認められなければならない。これは結構大変だろうと思う。
 離婚にあたり、妻が家から出て行けと言われないために、最初に何らかの持分を持てばいいのではないかと考える人がいるかもしれないが、住宅ローンが、家を取得するときにかなりの割合を占めている場合、裁判所は、財産分与の清算にあたり、そのローンの債務者(夫)に、相応の対価の支払いを条件に、妻の持分を取得することを認める。
 このため妻は家を使えなくなる(実際に、妻が住宅ローンの支払いを夫に代わり行なっていても)。
 したがって、妻にとって、家が仕事の面でも必要な場合、家の確保をどうするか良く考えておく必要がある。


 夫がローンを組んで購入した家に、妻と子が居住している(夫は家を出ている)という場合がよくあります。
 この場合、離婚になると、今の住まいはどうなるのでしょうか。調停など話し合いで、財産分与について、利用の仕方がまとまれば問題ないのですが、訴訟となり、判決まで行ってしまったときは問題が出てきます。
 裁判所の原則的な考え方は、財産分与について、家は、ローンを組んでいる夫に取得させます。したがって、離婚の場合、妻と子は家を出なければならなくなります。
 妻としては、ローンについて、夫から妻へ債務者の変更ができるならば、ローンを引継ぐことを前提として、妻が家を取得することが認められることはあります。ただし、夫のローンを肩代わりできるためには、妻にそれだけの経済力が求められます。この点は、良く注意して、調停段階から協議する必要があります。


 夫婦が5000万円のマンションを購入する際に、妻側が結婚前から貯金していた1000万円を頭金として充当し、残額4000万円をローンを組んだという場合。
 マンションという夫婦共有財産の形成において、5分の1は妻の寄与分・貢献度によるもので、残り5分の4は夫婦共同で築いた財産という評価になります。
従って、現在のマンションの時価が2000万円で、住宅ローンはゼロの場合、2000万円のうち、5分の1の400万円については、妻の寄与分・貢献度のものであり、2000万円のうち5分の4の1600万円が夫婦共同で築いた財産になるため、妻への分与額は、400万円+1600万円÷2=1200万円という計算になります。

 この寄与分・貢献度による評価方法は、妻が結婚前から貯金してきた財産を住宅の一部に使った場合だけでなく、妻側の両親から住宅購入の頭金の贈与を受けて住宅を購入した場合にも、同様の考え方がされています。

 寄与分・貢献度は、その人の固有財産とされるのか、共同財産だけれども分配で配慮するということか?
 結論はいずれの理解でも一緒かと思いますが、理屈の問題としては後者(夫婦共有財産であることを前提として配分で考慮する)という理解かと思われます。
 秋武判事の「離婚調停」によると、「夫婦が婚姻中に形成した財産については、通常、夫婦双方が同程度の寄与をした(2分の1ルール)と考えられますが、夫婦の一方が自分の資産を提供して夫婦の共有財産を形成した場合、これを夫婦が同程度の寄与とするのでは公平を欠きます。そこで、このような場合には、財産分与の寄与の割合を変えるべきです。」とされています。
この記載からすれば、固有財産が一旦は夫婦共有財産に混ざってしまったような状態になった場合には、全体が夫婦共有財産であるとして、寄与の割合を配分で考慮するという理解を前提としていると考えられます。


 元東京家裁所長代行・現仙台家裁所長の秋武憲一判事の著書「離婚調停」(平成23年の発刊で裁判官も参照しているとされる近年の離婚事件の基本書)によると、財産分与の基準時は、
「清算的財産分与については、夫婦が婚姻生活中に形成した財産が対象となるので、対象財産の基準時は、原則として、経済的な共同関係が消滅した時点となります。 
 つまり、別居が先行していれば、別居時に存在した財産、別居していないのであれば、離婚時に存在した財産がそれぞれ対象となります。別居した夫婦は、特段の事情が無い限り、それぞれ別々の経済生活を営んでおり、共同財産の形成に寄与・貢献するということはあり得ません」
とされています。

 名古屋家裁でも、調停委員の考え方、名古屋家裁の判決は、同様の運用かと思われます。