法定後見制度は、「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれており、本人の状態に応じていずれかの制度を選ぶことができます。

1 後見
 本人が、認知症、知的障害などの精神上の障害によって判断能力を欠く常況にある場合に、申立を受けて家庭裁判所が成年後見人を選任します。
 「判断能力を欠く常況にある」というのは、通常の状態で意思能力がないことを意味し、ときどき意思能力を回復する場合も含みます。
 成年後見人は、原則として本人(成年被後見人)の財産に関するすべての法律行為を本人に代わって行うことができますが、日用品の購入やその他日常生活に関する行為は本人が自分ですることができます。

2 保佐
 本人が精神上の障害によって判断能力が著しく不十分な場合に、申立を受けて家庭裁判所が保佐人を選任します。
 「判断能力が著しく不十分」というのは、日常的に必要な買い物程度は問題なく行えるものの、重要な財産を管理・処分するには援助が必要な状態のことをいいます。
 保佐人が選任されると、本人(被保佐人)が民法13条1項に定める一定の法律行為をするには保佐人の同意が必要になり、同意なしにされた行為は保佐人が取り消すことができます。また、これ以外の行為についても、必要であれば申立により同意権が留保される場合があります。

3 補助
 本人が精神上の障害によって判断能力が不十分な場合、申立を受けて家庭裁判所が補助人を選任します。
 「判断能力が不十分」というのは、大体のことは自分で判断できるが、難しい事項については本人の利益のためにできれば援助があったほうがいいという程度の状態をいいます。
 補助人は、当事者が申立てた特定の法律行為について、家庭裁判所の個別の審判により代理権または同意権、取消権が付与されます。
 なお、補助開始の審判は、本人が申し立てるか、本人以外の者が申し立てる場合は本人の同意を得る必要があります。


1 介護をした子が後見人との間で有償の介護委託契約をしていれば、その契約により報酬は判断されます。
2 介護委託契約がない場合、事務管理として報酬請求ができるかという問題があります。介護の程度が、子が親に対してもつ生活扶助義務の履行を超えた程度であれば、介護にかかった実費を有益費用として請求できるが、報酬請求権は認められないと考えられています。
3 後見人は本人に対して身上配慮義務があり、子も親に対して扶養義務を負っていることから、扶養義務者相互間の求償として請求できるかという問題がありますが、認められないと考えられています。
4 被後見人となる親の立場としては、このような結論となっていることを踏まえ、自分が被後見人となる前に介護してもらうことを予定している子との間で契約を締結するなど、何らかの対策が必要だと思われます。


 成年後見人において、社会生活を営むうえで必要な儀礼上の行為(贈与)をなすことは、社会通念に従って相当な金額であれば認められます。
 ただし、成年後見人は、本人の利益を守るためにその権限が与えられていることを重視しなければならないでしょう。
 被後見人となった本人としては、もっとこうしてほしいということがあるでしょうが、判断能力に問題がある段階では、このような扱いとなります。
 したがって、判断能力がある段階で、将来を見た準備が必要だと思われます。


 成年後見人は、本人に対して、善管注意義務を負っています。また、本人の財産を管理し、身上に配慮する義務があります。本人に損害を与えれば、成年後見人に義務違反があったとして責任追及されることにもなります。
 本人が認知症になる前であれば、自分(成年後見人)からお願いすれば、当然、援助してもらえる関係であったとしても(たとえば母と子)、成年後見人(子)が、本人(母)の財産を自分のために利用することはできません。
 成年後見人に義務違反があったときは、家庭裁判所は、本人・親族の請求や、職権により、後見人を解任できます。
 また、成年後見人が、故意・過失により、本人の権利を侵害すれば、不法行為による損害賠償責任が生じます。
 さらに、成年後見人の行為が背任・横領に当たれば、刑事責任も問われます。
 もともとは母と子だからと甘えることはできません。


 成年後見人が、本人の不動産を買おうとする場合、成年後見人の債務について、本人の不動産に抵当権を設定しようとする場合など、本人と成年後見人との利害が対立することになります。
 このような場合、家庭裁判所が特別代理人を選任し、この特別代理人が、本人の代理をすることになります。成年後見監督人が選任されている場合は、成年後見監督人が本人を代理します。
 特別代理人の選任は、成年後見人、本人、親族、その他利害関係人が申立をし、または、家庭裁判所が職権で、なされます。
 特別代理人には報酬が認められていますので、その費用を考えることも必要です。


 被後見人の死亡により、後見は終了し、相続が発生します。
病院の費用、家賃などの債務が残っている場合、相続人が相続放棄をしない限り、債務は、相続人が支払義務を負うことになります。
 ただし、後見人は、後見が終了した後でも、一定範囲で後見人の義務が存続し、急迫の事情があれば、被後見人であった者のために、必要な範囲で後見の事務を処理しなければならないとされています(応急善処義務)。
急迫の事情がある場合としては、相続人への引継ぎに時間を要し、遅れることで遅延損害金を請求されるおそれがある場合などです。
 後見人としては、相続人との間で紛争にならないように、記録・証拠を残すことが必要でしょうし、支払いにあたっては、必要な範囲で行なうことに注意するべきです。