コロナショックが企業活動に与える影響は激しく,収益が悪化するテナント側としては,必要経費を少しでも低減させたいと考えるのは当然です。その結果,賃料減額の要請が増えることになります。

借地借家法に基づく賃料減額請求

 借地借家法(旧借地法・旧借家法)の適用がある場合,賃借人は地代・借賃の不相当を理由として減額請求権を行使することができます。これは,単に,賃料減額の相談を持ち掛けるだけでは行使したことにならず,具体的な改定額を明示しなければなりません。
 いつの時点で減額の意思表示をしたのか,明確にする意味でも,内容証明郵便にて何月分の地代等から改定するかを通知すべきでしょう。

 中心的な論点となる地代等の『相当額』は,いわゆる新規賃料相当額ではなく,継続賃料であるため,専門的な判断が必要です。裁判実務や鑑定実務(=国交省所定の不動産鑑定評価基準)では,以下4つの方式(④は適切な事例情報が得られず,①ないし③の方式が多い。)で算出された数値を総合評価することが一般化されています。
 コロナショックで,テナント収益が悪化している経済事情変動は,①ないし③の算出方式においても影響を及ぼすでしょう。

①利回り法
賃借物の基礎価格に利回りを乗じた純賃料に必要経費を加算する。

②スライド法
既定地代等を基準に,その後の経済変動指数を乗じる。

③差額分配法
請求権行使時の適正賃料(≒新規賃料)と現行賃料との差額の内,貸主に帰属すべき部分を加算する。

④賃貸事例比較法
近隣同種同等の賃貸事例における相場と比較,個別要因による補正をする。

改正民法611条1項に基づく必要的地代減額

 2020年4月1日より施行された改正民法611条1項では,「賃借物の一部が滅失その他の事由​により使用及び収益することができなくなった場合において,それが賃借人の責に帰することができない事由によるものであるときは,賃料は,その使用及び収益することができなくなった部分の割合に応じて,減額される。」と規定されています。
 
 賃借人の賃料支払義務は,賃貸人の使用収益義務の対価であり,客観的に使用収益できないときは対価も発生しないから,その部分について賃料が必要的に減らされるという規定です。

 改正前は,賃借物"滅失"に限って賃料減額請求を認めていましたが,改正後は"その他の事由"にまで拡大し,かつ,当然減額の形に改められました。この『その他の事由』について,具体的にどのような事由が含まれるかは,今後の解釈に委ねられています。
 コロナショックで緊急事態宣言が発出され,法的拘束力は伴わないものの,営業自粛要請や,営業時間短縮要請が行政側から出ている状況は,客観的に使用収益することが憚られる状況にあると言え,少なくとも緊急事態宣言発出中においては,『その他の事由』に該当すると考えることもできるでしょう。