私有地内に放置自動車が存在する場合,地主としては頭が痛い問題です。その理由は,合法的に撤去することに,手間と費用が掛かるためです。自動車は,それなりに価値が付く可能性のある“財産”でもあるため,無断で処分することは,刑事上の器物損壊行為・占有離脱物横領行為,民事上の不法行為に該当する虞があります。
 安全に処理する手続について,順を追って見ていきましょう。

1 公道上にある放置自動車の場合

 公道上の放置自動車であれば,警察又は道路管理者である行政が,売却・廃棄することが出来るため(道路法44条の2,道路交通法81条,その他公物の管理を所管する法令が多数あり。),そこに通報することになります。

2 警察に通報する〔事件性の把握〕

 私有地内の放置自動車の場合,民事不介入という立場から,基本的には行政機関による対処が望めません。しかし,放置自動車処理の第1段階は,警察機関に通報することです。
 当該放置自動車が,盗難車両や,犯罪の証拠品となる車両である場合,警察機関が押収してくれる場合があるからです。

3 所有者の調査・確認

 警察に押収してもらえない場合は,いよいよ自ら動く必要があります。放置自動車処理の第2段階は,当該自動車の所有者を調査・確認することです。

ア 確認できる対象か否か
 まず,当該自動車に,所有者を調査できる痕跡が残されているか否かを確認しましょう。早い手段は,通報した警察機関に,所有者の確認が取れたか否か聞くことです。応答してもらえない場合は,ナンバープレートや車体番号を控えて,普通乗用車は運輸局(私有地放置車両現状確認書の作成,本人確認書類,申請書及び印紙が必要になります。),軽自動車は軽自動車協会(土地登記記録の全部事項証明書,現況写真,身分証明書,申請書及び手数料が必要になります。)にて,登録事項等証明書を発行してもらい把握します。

イ 確認できた場合
 登録所有者が確認できた場合には,引取の催告及び賃料相当損害金の請求を文書で送付しましょう。後の証拠利用を想定して,内容証明郵便で送付することが肝要です。なお,登録所有者が登録事項等証明書記載の住所地から移転している可能性があるので,弁護士等に現住所の調査を頼みましょう。

4 対処方法の選択

 ナンバープレートが外されていたり,車体番号が削られていたり,放置車両が自動二輪車であったり,引取催告書面が「保管期間満了(=受取拒否)」「宛所尋ねあたりません」で返送されてしまった場合,事後的な対策は大きく2つに分かれます。

① 裁判手続・強制執行手続の利用
 安全策としては,居留守又は所在不明の登録所有者に対して,妨害排除請求としての土地明渡請求及び賃料相当損害金の請求の裁判を提起することです。そして,勝訴し,判決が確定した後,放置自動車に市場価値がありそうな場合には,ナンバープレート付きの普通自動車は自動車競売手続,それ以外の車両は動産競売手続を申立てます。価値が高い場合には,第三者競落札人が付くでしょうし,買手がない場合には土地所有者が自己競落することも可能です(その際,買取費用は,賃料相当損害金から差引充当されるので,支払原資も不要です。)。
 市場価値が無さそうな場合には,土地明渡執行手続を申立てます。放置車両が無価値と判断された場合,裁判所執行官が廃棄指示を出すので,ようやく解体業者に回すことができます。
 このように,裁判手続・強制執行手続の場合,確実な処理が可能になりますが,大きなデメリットとして,ゴールまで相当時間を要することと,費用対効果が悪いことにあります。

② 無主物として所有権を移す
 若干リスクがありますが,上記①と比較して短期間かつ低コストに対応できる手法として,放置自動車を「所有者のない動産(無主物)」と評価する方法があります。無主物を土地所有者自らが占有すると,所有権を取得できるため(民法239条1項),その後は自由に処分することが出来ます。
 もっとも,事後的に所有者を名乗る者が現れた場合,無主物性の判断を巡って,刑事上は占有離脱物横領罪の成否,民事上は不法行為の成否が問われる可能性があります。そのため,当該手法をとる場合には,一定期間の引取催告を公示し,かつ,当該放置自動車の状況(概況,社内残置物等)を写真で保全しておく等,証拠化しておく必要があるでしょう。具体的な方法については,是非,弁護士にご相談下さい。