『民泊』という言葉,ニュースで耳にしたことがあるけれども,あまりピンとこない日本人が多いと思います。けれども,賃貸不動産等の収益物件を所有する方には,空室率の打開策として,大きな影響を与えることになりそうです。

従来の宿泊サービスに関する規制

 日本では,旅館業法で,一定の「施設」で「宿泊料を受けて」「人を宿泊(=寝具を利用して施設を利用)させる営業」をする場合,安全・衛生の確保のため,都道府県知事(一定地域では市長・区長)の許可が必要とされています。
 従来の法制度では,住宅の全部又は一部を利用して旅行客等に宿泊サービスを提供する場合,少なくとも旅行業のうち,簡易宿所営業の許可を取る必要がありました(国家戦略特区に指定された地域[東京都大田区・大阪市・北九州市・新潟市]では,条例に定める要件を満たせば,旅館業法規制の例外として運用されていました。)。この場合,施設の構造に関する要件(代表的なもので居室の床面積が)を満たす必要があり,消防法への適合状況,建築基準法上の用途変更その他適合状況も確認する必要がありました。
 無許可営業をした場合,6月以内の懲役又は3万円以下の罰金が予定されています。

住宅宿泊事業法の公布

 訪日観光者(インバウンド)の獲得を主目的に,旅館業法の規制緩和策として,住宅宿泊事業法が平成29年6月16日に公布され,平成30年6月15日に施行されます(住宅宿泊事業者の届出は,同年3月15日から先行スタートします。)。
 この法律では,『民泊』を「住宅宿泊事業」と定義し,都道府県知事(一定の地域は市長又は区長)へ届出をするのみで足り,旅館業法上の施設構造要件ではなく新たに“住宅”要件を設け,既存の住宅を民泊サービスに活用しやすい形にしています。また,旅館業では規制地域となる住居専用地域においても,原則として開業できることになっています。
 一方で,旅館業との棲み分けをするべく,住宅宿泊事業は宿泊サービスの提供日数が1年間(4月1日正午から翌年4月1日正午まで)で180日以内という制限が付きました。

条例による付加制限の可能性

 新法の怖いところは,条例による上乗せ規制を容認している所です(法18条,同法施行令1条)。
 民泊が活発化すれば,比例してインバウンドが急増し,残念ながら騒音・不法投棄といった非行・犯罪も増加して,静穏な住居環境が乱される可能性があります。そのため,既に一部の地域では,住宅専用地域での開業を制限する条例を設けたり,1週間のうち平日の大部分で開業を制限する条例を設け始めています。
 中部地区では,まだこうした条例は制定されていませんが,名古屋市内でどういった条例が制定されるのか,注目していく必要があるでしょう。


住宅宿泊事業法2条1項「住宅」の意義

 住宅宿泊事業法は,旅館業法上の業者以外の者が,宿泊料を受けて「住宅」に人を宿泊させる事業(上限は1年間で180日)を住宅宿泊事業として定めています。
 この「住宅」とは,どのような家屋でも対象になる訳ではなく,①施設要件と②居住要件を満たしている必要があります(法2条1項各号)。

施設要件

 住宅宿泊事業法施行規則第1条にて,台所・浴室・便所・洗面設備の設置が要求されています。同法の解釈指針であるガイドラインでは,各種設備は一棟の建物内に備わっている必要は無く,同一敷地内に存在して一体的に使用する権限があり,各施設が使用可能であれば足りるとされています。
 ユニットバスだと,複数の施設を兼ねることが出来ます。浴室はシャワーが存在していれば十分であり,トイレも和式・洋式を問いません。

居住要件

大きく分けて,3つの家屋を予定しています。
・現に生活の本拠として使用されている家屋
いわゆる,オーナーが自宅として利用している家屋です。
住民票上の住所として届出されていれば,要件を具備しています。

・入居者の募集が行われている家屋
住宅宿泊事業中に売却・賃貸の形態で入居募集を行っている家屋です。

・随時その所有者,賃借人又は転借人の居住の用に供されている家屋
居所利用している訳ではないが,オーナーが随時利用されていたり(年1回以上の利用),賃借人・転借人が存在している家屋です。
ガイドラインでは,別荘,セカンドハウス,転勤で利用していない空き家,相続で獲得した空き家等,具体例も掲載されています。

事業用施設の民泊転用について

 居住要件では,「人の居住の用に供されている」必要があり,住宅宿泊事業の活動限界を超えた日数において,当該施設を別事業に利用するような事業用施設の場合,要件に合致しないとして「住宅」の定義から外されてしまいます。
 こうした事業用施設を民泊転用する場合,従前の規制と同様,旅館業法上の許可を得る必要が出てきますので,ご注意下さい。